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経営戦略・事業戦略

創業計画書の記載のポイント その4

2025.01.10

日本政策金融公庫(以下、公庫といいます。)に創業融資の申し込みをする際には、創業計画書(※1)を作成する必要があり、構成は以下のとおりです(令和6年11月末現在)。

  1. 創業の動機
  2. 経営者の略歴等
  3. 取扱商品・サービス
  4. 従業員
  5. 取引先・取引関係等
  6. 関連企業
  7. お借入の状況
  8. 必要な資金と調達方法
  9. 事業の見通し
  10. 自由記述欄

前回までコラムで、①創業の動機~⑧必要な資金と調達方法、についての記載のポイントをまとめました。

「⑨事業の見通し」は、事業の将来的な成長や収益性を示す部分であり、公庫が融資を決定する際の重要な判断材料となります。ここでは、売上予測、利益計画などを具体的に記載する必要があり、今回は、その記載のポイントを解説します。

 

(※1)日本政策金融公庫の創業計画書は、以下のサイトに掲載されています。

https://www.jfc.go.jp/n/service/dl_kokumin.html

 

「事業の見通し」作成の準備

創業計画書の「事業の見通し」では、「創業当初」と「1年後又は軌道に乗った後」の2つの数字をまとめることとなっています。

いきなりこの数字を記載することは難しいので、上記に記載しております日本政策金融公庫のサイトのなかにある、「月別収支計画書」という書式で月次の事業計画を作成するのが良いでしょう。検索エンジンにて「月次計画 テンプレート」で検索すると無料の計画書の書式がいくつも出てきますので、業態にあったテンプレートを使用しても良いかと存じます。その際にも計画は月次で作成できる様式を選択してください。

また、計画の妥当性を検証するための資料として、同じく日本政策金融公庫のHPに収納されている「小企業の経営指標調査」のなかから自社事業と類似する事業の資料を準備しておくと良いかと存じます。

 

「事業見通し」の作成ステップ

公庫のセルフチェックリストを見ますと、「事業の見通し」に関しては、以下の項目が記載されています。

  • 計算根拠をもって売上高や売上原価の予測を立てていますか?
  • 経費に漏れがないか検討していますか?
  • 利益から借入の返済が可能な収支計画となっていますか?

いきなり「計算根拠」とあるのですが、まだ始めていない事業の場合、何を根拠にすればよいのか難しく、早々にギブアップしてしまいそうです。「売上高」、「売上原価」、「経費/販売費および一般管理費」の各項目について細かく分解していき検討してみましょう。

 

  1. 売上高

売上高については、「創業時10万円、2か月目50万円、3か月目~」というようにある程度の目線となる数値はあるかと存じますが、単に「これくらいの売上高を目標とします」では説得力がなく、この数値の根拠を占めることが必要となります。

数値の目線は、市場環境の分析や創業者の経験のなかから導きだされるものですが、根拠を示すためには、売上高を分解し、各項目についての実現可能性を検証していくと良いでしょう。

例えば、靴小売業を創業するとしましょう。その場合、売上高は以下のような分類ができるかと思います。

 

1か月間の売上高= 1日当たりの客数 × 客の平均購入価格 × 1か月の営業日数

 

  この場合、1日当たりの客数 40人、客の平均購入価格 1万円、1か月の営業日数 25日とすると、1か月間の売上高は1,000万円となります。

  この数値が妥当なのかを2024年8月の「小企業の経営指標調査」(以下、「指標調査」といいます)を見てみます。経営指標のなかには1日当たりの客数や平均購入価格の記載はありませんが、1企業当たりの平均店舗面積と面積当たりの売上高についての記載があります。

 平均店舗面積は、約55.5坪、坪当たりの月間売上高は約19万円となっていますので、1か月間の売上高は1,054万円となります。店舗の面積が指標と同レベルの55坪程度であれば計画売上高は達成可能な水準と判断されます。

 上記の数値はあくまでも一例ですので、例えば一般の靴小売業よりも高級な靴を販売しようという計画なのであれば平均購入価格を高くし、その代わりに1日当たりの客数を減少させることも妥当かもしれませんし、ショッピングモールなどに出店する場合は1か月の営業日数は25日よりも長くなるでしょう。自分の創業するビジネスの形態に合わせて試算をしてみるのが良いです。

 なお、売上高の分解例は、店舗販売を想定して記載していますが、販売方法がECサイトを通じた通信販売の場合は、

 

 1か月間の売上高=1か月間のサイト集客数 × コンバージョン率 × 客の平均購入価格

 

という分解のしかたになるかと思います。どのような分解の仕方が妥当なのかは、業種・業態によって異なりますので、適した方法を検討しましょう。

 このような形で、月次売上高の概略数値を作成していきますが、月次での売上計画を立てる際には、季節性を考慮することも必要となります。一般的に小売業の場合、2月・8月は閑散期として売上高が落ちる傾向にありますので、このような季節性も踏まえて売上計画を立案することで、より実現可能性のある事業計画を策定することができます。

 

  1. 売上原価

 売上原価とは、企業が製品やサービスを製造または提供するために直接かかる費用のことを指します。卸売業・小売業の場合であれば、売上高に対応する仕入商品の価格ですし、製造業の場合ですと売り上げた製品に対応する製造コスト(原材料費、労務費、工場原価など)となります。

売上高に対する売上原価の比率は業種により異なるため、どの程度で設定するのかは、業界の平均や創業者の経験、販売戦略などにより異なってくるものです。

靴小売業の指標調査を見てみますと、売上高の約50%が売上原価となっているようですので、その比率を参考としつつも、販売形態(店舗で販売する場合とECサイトによる通信販売の場合など)、販売商品(紳士用靴、婦人用靴、子供用靴など)により原価率を検証してみましょう。各セグメントにより異なる原価率を採用したほうが現実的であると判断される場合には、少し面倒ではありますが、いくつかの原価率を利用しながら計画を作成するのが良いでしょう。

また、製造業の場合は特に商流図を作成して売上原価に漏れがないかを確認するのがよいでしょう。商流図を踏まえた原価の分析については、(3)にてまとめて記載いたします。

 

  1. 販売費および一般管理費(以下、「販売管理費」といいます)

販売管理費とは、企業が商品やサービスを販売する際に発生する費用および管理活動を行う際に必要となる費用を指します。この費用は、企業の経営活動を支えるための重要な役割を果たしており、多岐にわたる費用項目で構成されています。以下に主な項目を挙げます。

  • 広告宣伝費:企業が商品やサービスの認知度を高めるために行う広告やプロモーションにかかる費用です。
  • 販売手数料:商品やサービスを販売する際に発生する仲介手数料や代理店手数料です。
  • 人件費:販売部門や管理部門の従業員に支払われる給与や賞与、福利厚生費などです。
  • 租税公課:事業活動に関連する税金や公課費用です。
  • 減価償却費:販売管理活動に使用する設備や備品の減価償却費です。
  • 交通費:営業活動や管理業務に必要な出張費や移動費です。
  • 通信費:電話、インターネット、郵便などの通信に関連する費用です。
  • 事務用品費:販売管理活動に必要な事務用品や消耗品の購入費用です。

 

販売管理費の計画を立てるうえでのポイントは以下のとおりです。

  1. 商流図をイメージして、必要となる販売管理費に漏れがないようにする

商流図とは、企業活動における商品の流れや情報の流れを視覚的に示したもので、この図を使うことで、自社ビジネスのプロセスを簡潔に把握でき、効率的な業務運営が可能となります。創業時の商流図では、プロセス(商品の発注から納品までの一連の流れ)と人員配置(プロセスを担当する部門や担当者)を重点的にまとめるのが良いでしょう。

この商流図を見ながら、各プロセスにおいて必要となる経費をまとめていくと漏れが少なくなります。

 

  1. 固定費と変動費にわけて計画を策定する

営業費用(販売管理費のほか製造経費を含む)は、一般的に固定費と変動費に分類されます。固定費とは、売上高に関わらず一定の期間にわたって発生する費用であり、例えば、賃料、人件費、保険料などが含まれます。一方、変動費は売上高や生産量に比例して変動する費用であり、例えば、広告宣伝費、運送費、販売手数料などが含まれます。

固定費は、基本的には毎月同額を計上していくだけですので、一旦金額を確定させてしまえばシンプルに計画を策定することができます。

一方で、変動費については、少し検討が必要となります。例えばチラシを配布して集客する場合を想定してみます。配布したチラシの枚数のうち1%が来客し、来客者のうち50%が実際に購買すると仮定した場合、10人の購買者を獲得するためには、2千枚のチラシを作成する必要があり、20人の購買者を獲得するためには4千枚のチラシが必要となります。このようにすると、顧客一人獲得当たりの広告宣伝費が算出できますので、計画における獲得顧客数に応じて広告宣伝費の増減を計画していくことが可能となります。

このように固定費と変動費にわけて販売管理費の計画を策定すれば、売上計画を見直す際に修正の必要となるコストが明確となるため、計画の修正作業も容易になります。

 

  1. 借入金の返済を販売管理費には計上しない

創業計画を拝見すると、ときどき借入利息のほかに借入金の約定返済金額を販売管理費に計上されている方がいます。確かに現金がなくなるので費用として感じるのかもしれませんが、(営業外)費用として計上しなければならないのは支払利息であり、借入金の返済は単なる資金の動きで、損益計算書に反映される費用ではありませんので、留意してください。

 

利益金額の目安はどれくらいが妥当なのか

上記記載のステップを踏むことで、月次での事業見通しを作成することができるかと存じますが、では策定された事業見通しの利益水準はどの程度となっているのが妥当なのでしょうか?

2024年8月の指標調査における靴小売業の平均での売上高経常利益(償却前)は、2.9%となっています(1億円の売上の場合、2.9百万円の償却前経常利益がでているという意味です)。

創業者独自のアイディアなどを活かして事業運営を行うことで、同業平均を上回る利益を獲得することは十分可能な話ですので、同業平均並みの利益水準としなければいけないということはありません。とはいえ、公庫の担当者は同業の利益水準を意識しながら事業計画を分析するでしょうから、同業よりも高収益となる要因についてはしっかりと説明できるようにする必要はあるでしょう。念のため売上原価、販売管理費を再チェックして必要となる経費に漏れがないかを確認しておきましょう。

また、創業後1か月から3か月程度で黒字になるという計画を無理に立てる必要はありません。公庫の創業計画のセルフチェックリストを見ても、「事業開始後の運転資金(半年程度の赤字補てん資金など)について検討していますか?」とされていますので、創業したての企業が事業開始後半年程度は赤字運営となることは想定の範囲内なのです。実現可能性の高い計画を立てるべきですので、創業半年は保守的な赤字計画であっても問題はないのです。

このような観点を踏まえ、「1年後又は軌道に乗った後」の利益で今回の創業融資資金の毎月の返済が問題なく実施できる税引後当期利益の水準が達成されていれば事業見通しとしては十分と言えます。

 

まとめ

4回にわたり創業計画の記載のポイントについて纏めてきました。大事なことは、「真正な内容であること」と「実現可能性を感じさせる計画であること」の2点です。

このコラムを参考に創業融資を受けることのできる創業計画書を多くの経営者の方に作成いただくことを期待します。

記事監修者紹介

本記事は、創業支援や資金調達に豊富な実績を持つ**みらいアーク株式会社(Mirai Arc Inc.)**の監修を受けて作成されています。みらいアーク株式会社は、創業希望者やスタートアップ企業の成長を支援するため、融資のサポートから経営コンサルティングまで幅広く対応。経験豊富なコンサルタントチームが、数多くの成功事例をもとにアドバイスを提供しています。

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