日本政策金融公庫(以下、公庫といいます。)に創業融資の申し込みをする際には、創業計画書(※1)を作成する必要があり、構成は以下のとおりです(令和6年11月末現在)。
- 創業の動機
- 経営者の略歴等
- 取扱商品・サービス
- 従業員
- 取引先・取引関係等
- 関連企業
- お借入の状況
- 必要な資金と調達方法
- 事業の見通し
- 自由記述欄
前回までコラムで、①創業の動機~③取扱い商品・サービス、についての記載のポイントをまとめました(また、④従業員、⑤取引先・取引関係等は、雇用している従業員がいる場合や取引を行っている、もしくは取引が決まっている取引先の内容を記載するものですので、特に難しく考える必要はない旨ご説明しております)。
今回は、⑥関連企業~⑧の必要な資金と調達方法、について記載のポイントを解説します。
(※1)日本政策金融公庫の創業計画書は、以下のサイトに掲載されています。
https://www.jfc.go.jp/n/service/dl_kokumin.html
「関連企業」について
「関連企業」については、申込人、法人代表者または配偶者が経営している企業がある場合に記入することとなっています。
関連企業がある場合、公庫が審査する項目は、主に以下の内容となります。
- 法人の代表者が、新規で創業する企業の経営に専念できる状況にあるのか?
- 関連会社の業績が不振で新規融資を受けられないため、別会社を設立し融資を受けようとしていないか?
公庫としては、新規で創業する企業へ融資を行うので、経営者が創業ビジネスに専念することを前提としていますし、また、迂回融資のような形で資金を利用されることがないよう審査することとなります。そのため、新しく創業する企業の業務内容と関連企業の業務内容とが似ている場合や取引関係が発生しそうな業態の場合、新しく創業する企業での創業融資の審査で厳しく確認されることとなります。なお、ベンチャーキャピタルからの資金調達の場合であっても、資金提供される事業に代表者が専念することを求められるケースが多く、形式的に別の企業の役員に就任している場合は、創業融資を受ける前に役員を辞任しておくなどの整理を行っておくほうが良いでしょう。
「お借入の状況」について
この欄には、代表者の借入金の内容を記載することとなっています。
創業時の企業は、個人の資金と企業の資金とが実質的に一体となって運営されている(企業のお金が足りなくなれば、代表者の個人資金を充当するなど)ことも多いため、与信を判断するうえでは重要な審査項目と言えます。
ここで注意すべきは、当然のことながら、「漏れなく記載する」ということです。
個人の借入が多い場合には融資が受けにくくなる傾向があるため、どうしても少なく記載しておきたい、という気持ちは理解できるのですが、創業融資に際しては、半年~1年程度の期間の代表者個人のすべての預金通帳を提出し、出金の内容を細かく精査されますので、個人借入は公庫担当者に簡単に把握されることとなります。個人借入の記載で漏れがある場合は、「不実な経営者」という烙印を押されてしまい、融資審査においては大きなマイナスとなってしまいます。
「必要な資金と調達方法」について
創業計画書の「⑨事業の見通し」を作成した後でなければ、必要な資金の金額は出しにくいので、個人的には「⑨事業の見通し」作成後に「⑧必要な資金と調達方法」は作成するべきと感じていますが、公庫の創業計画の様式では、必要な資金と調達方法を先に記載することとなっていますので、この順番に従って説明したいと思います。
「必要な資金」について
設備資金とは
創業計画書の書式を見ますと、「設備資金」と「運転資金」に分かれて記載することとなっています。「設備資金」とは、事業を運営するために必要な機械、設備、車両、店舗、オフィスの購入や改装に使用される資金のことを指し、使用可能期間が1年以上となるもので金額が10万円をこえるものであれば、設備資金として記載するのが良いでしょう。設備資金は一度に大きな投資が必要となるため、自己資金だけでは賄いきれないケースが多く、公庫の創業融資が頼りにされることが多いです。
公庫の創業計画のセルフチェックリストを見ますと、「見積金額が適切か、相場を調べたり、相見積もりを取得するなどして、検証していますか?」との記載があります。設備関係の購入資金については複数の見積もりを取得したうえで、価格・性能などを踏まえた合理的な購入金額を設備資金として記載してます。なお、公庫は融資した資金が目的通りの設備に使用されているかを確認しますので、設備資金として融資を受けた金額相当は設備の購入代金として使用し、領収書を保存しておくとともに、会計帳簿にも適切に計上することが必要です。
運転資金とは
「運転資金」とは、企業が日常の業務を円滑に行うために必要な資金を指します。特に創業期の企業にとっては、事業が安定するまでの間、継続的な資金繰りが重要となります。運転資金の主な項目としては、以下のとおりとなります。
- 材料費: 製品製造やサービス提供に必要な原材料や部品の購入費用。
- 労働費: 従業員の給与や社会保険料。
- 在庫コスト: 製品や原材料の保管費用。
- 販売費: マーケティングや広告にかかる費用。
- 一般管理費: 事務所の賃貸料や光熱費などの運営費用。
公庫の創業計画のセルフチェックリストを見ますと、「事業開始後の運転資金(半年程度の赤字補てん資金など)について検討していますか?」とあります。創業時の企業は、売上がまだ安定していないため、予期しない支出や収入の遅延に対応するための予備資金を持つことが重要です。運転資金は多岐にわたりますので、事業運営において発生する運転資金をもれなく計上できているか、何度も確認することが必要です。
見落としがちな運転資金としては、2つあります。1つ目は税金や社会保険です。法人を設立すれば、利益が出ていなくても法人税・地方税・事業税・固定資産税などの税金負担が発生しますし、預かっている消費税の納税義務を負うこととなります。また、役員報酬や従業員給与を支払うのであれば、年金、健康保険、雇用保険、労働保険等の社会保険が発生します。企業が直接負担する分以外にも、従業員から預かっている社会保険料や源泉所得税などの支払い義務も企業が行うこととなります。創業当初は、このような税金・社会保険料の支払いに慣れておらず、過去には適正な手続きを失念したためまとまった納付資金を必要とする事例も見てきました。運転資金の算出においては、税金や社会保険の金額を漏らすことのないようにチェックを行いましょう。
2つ目は、売上債権の回収と仕入資金の支払いのタイミングのずれにより必要となる資金です(正常運転資金と言います)。例えば、材料の支払いは1か月後、製品の製造から売上高の回収までが2か月後となる場合、売上代金が回収できるまでの間は材料の支払いに充当できないため、別途資金を用意しておく必要があります。正常運転資金は一般的には売上高が増加すればするほど必要資金量も多くなるため、この正常運転資金をしっかりと確保しておかなければ、売上高の拡大は難しくなります。創業時の事業計画では売上高を拡大させていく計画を作成することが多いため、それに合わせた正常運転資金量を必要資金として記載してあるかチェックしましょう。
妥当な必要資金の金額とは?
融資を受けることのできる必要資金量はどの程度になると考えればよいのでしょうか?一般的には必要最小限の設備投資金額+6か月程度の間に必要となる運転資金程度が目安になるかと思われます。
時々本社の改装費用として多額の資金を希望する経営者の方もいらっしゃいますが、その本社が接客の中心的な場所になるなど利益を生み出すことがない限り、認められることは少ないかと存じます。利益を生み出さない設備投資は、自社収益が上がった段階で実施するべきもので、最劣後とされる資金であるとの認識をしておくべきでしょう。
また、創業前のビジネスにおいて大きな取引を経験してきている創業者から「最低でも50百万円、できれば1億円程度の創業資金を融資してもらいたい」、いうような相談を受けることがありますが、かなりハードルが高いと言わざるを得ません。大きな資金があったほうが利益も大きくなる、という説明自体は理解できるのですが、実績がない状態では審査担当者を説得することは難しいのです。多額の資金がないとビジネスができない、という説明を続けますと、融資金額の減額どころか、そもそも融資を見送りされてしまう可能性が高くなります。創業ビジネスは成功しうる事業であるという説得材料を公庫担当者に持ってもらうための実績を作っていくうえで必要となる資金量を算定することが肝要です。
(2)「調達方法」について
①自己資金について
調達方法の欄には、事業の運営に必要な資金をどのように調達するかを具体的かつ詳細に記載する必要があります。
公庫のセルフチェックリストを見ますと、「自己資金が少なく、借入依存の資金調達計画になっていませんか?」との記載がされています。
過去においては、自己資金の金額の2倍から3倍程度が創業融資の目安と言われておりました。最近では自己資金の金額に関係なく創業融資を受けることはできるようになっているのですが、自己資金の金額があまりに少ない場合は、審査はやはり厳しくなると感じております。
では、ここでいう自己資金の金額とはどのようなものを言うのでしょうか?一般的には以下のような金額とされています。
- 自分、共同経営者で貯めてきた資金(貯金など。退職金も含む。配偶者の資金が認められるケースもあります。)
- 創業のためにすでに消費しているお金。領収書等があれば、自己資金として認められます。
- 親族等から贈与をうけたお金。贈与資金であることが明確にわかる契約書が必要です。
一方で自己資金といて認められないお金としては、以下のような資金となります。
- 親族・友人からの借入金。
- タンス預金など資金の出所が把握できない資金、創業直前に他人から振り込まれた資金
などは自己資金としては認められません。よく知人から振り込まれた借入金を利用して創業時の出資金として代表者が振り込んだ形とし、会社設立後に知人に返済してしまっている見せ金で法人を設立しているケースを見かけます。このような出資金は自己資金とはみなしてもらえないどころか、真の経営者が誰なのかわかならない、という理由で融資見送りとなってしまうこともありますので、注意しましょう。
②留意事項
必要資金の調達方法として、公庫以外の金融機関からの資金調達も計画している場合、公庫としては他の金融機関と一緒に融資をする「協調融資」というスキームをとることとなります。協調融資の場合、仮に公庫の審査が通ったとしても、他の金融機関の融資が下りなかった場合には、公庫の融資も実行されないこととなることが多いようです。
そのため、協調融資が必要となる程度の規模の資金が本当に必要な事業なのか、よく検証を行ったうえで公庫の融資申し込みに進むのが良いでしょう。
まとめ
今回のコラムにて記載しているなかで、「必要な資金と調達方法」の部分は、いろいろな悩みどころが多い部分となっています。
このコラムを参考に記載内容を検討いただき、必要に応じて第三者の意見なども参考にされると良いかと存じます。
記事監修者紹介
本記事は、創業支援や資金調達に豊富な実績を持つ**みらいアーク株式会社(Mirai Arc Inc.)**の監修を受けて作成されています。みらいアーク株式会社は、創業希望者やスタートアップ企業の成長を支援するため、融資のサポートから経営コンサルティングまで幅広く対応。経験豊富なコンサルタントチームが、数多くの成功事例をもとにアドバイスを提供しています。