スタートアップ企業の経営者と面談をする際に、相談として多いのは、「資金調達をしたい」というものです。その際に「もう少し早く相談してほしかったなぁ。創業融資をうまく活用しておけばよかったのに」と思うこともあります。
このような経験を踏まえ、今回は「創業融資」の基本的なことについて説明したいと思います。
創業融資って何?
ここでは、創業融資を多く行っている日本政策金融公庫による創業融資について記載します(※1)。
(1)創業融資の定義
創業融資とは、新たに事業を始める方や事業開始後税務申告を2期終えていない方を対象に、営業実績が乏しいなどの理由で資金調達が困難な場合に提供される融資制度です。この制度は、幅広い方の創業・スタートアップを重点的に支援することを目的としています。
(2)創業融資の特徴
- 無担保・無保証人融資: 新たに事業を始める方や事業開始後税務申告を2期終えていない方は、原則として無担保・無保証人で各種融資制度を利用できます。
- 利率の引き下げ: 新たに事業を始める方や事業開始後税務申告を2期終えていない方は、利率が一律65%引き下げられます(雇用の拡大を図る場合は0.9%引き下げ)。
- 長期返済: 設備資金は20年以内(うち据置期間5年以内)、運転資金は原則10年以内(うち据置期間5年以内)と長期で返済が可能です。
このように、日本政策金融公庫の創業融資は、スタートアップ企業や新規事業を始める方々にとって非常に有利な条件で資金調達を支援する制度で、令和3年度の創業融資実績は26,000件、総額1,406億円、1件当たりの平均金額は5.4百万円となっています。
(※1)日本政策金融公庫HPをもとに作成。
創業融資って必要なのか?
「小さく始めて大きく育てていくつもりなので、自分で用意した自己資金だけで事業を行います」という経営の仕方もあるかと思いますが、スタートアップ企業にとって、余裕のある創業資金を確保しておくことは重要であり、そのために創業融資を受けることをお勧めします。その理由としては以下の点が挙げられます。
①初期資金の確保
スタートアップ企業は、新しいビジネスモデルや製品を開発するために多くの資金を必要とします。創業融資を受けることで、事業運営に必要な初期資金を確保することができ、ビジネスのスタートをスムーズに切ることができます。
初期資金は確保できています、と思っていても、以下のような「創業時の落とし穴」にはまってしまい、予想していなかった資金不足を引き起こす場合もあります。
【ケース1】銀行口座の開設に費用が掛かってしまう
創業すると最初に銀行口座の開設を行うことが多いですが、簡単に銀行の口座は開設できると思っていませんか?
銀行は、マネーロンダリングやテロ資金供与を防止するために厳しい規制要件を満たす必要があり、新規の会社の場合、銀行はその会社のビジネスモデル、取引の透明性、経営陣の背景などを詳細に調査するため、 新規の口座開設がなかなかできない場合があります。
その際に、口座開設に有利になることがあるため、コストをかけて企業のウェブサイトを作る会社もあります。
また、創業者にとってコスト面で魅力のあるシェアオフィスを本社として登記する創業者もいらっしゃるかと思いますが、シェアオフィスは、実際の業務が別の場所で行われるため、物理的な所在地がはっきりしないことが信用リスクと見なされ銀行口座が開設できないケースもあります。そうなると、改めて本社を借りるために敷金の支払いなどが必要となりますし、本社変更のための登記をしなおす費用なども追加で発生してしまいます。
【ケース2】売上代金の回収と仕入等の代金の支払いタイミングのずれを資金計画に入れていない。
創業者の事業計画・資金計画を拝見しますと、人件費、地代家賃など直接的に支払いが発生する費用は計画に記載されているのですが、売上代金の回収と仕入等の代金の支払いのずれによって発生する資金不足については資金計画に含まれていないことがあります。
回収と支払いのずれによる必要資金とはどういうことでしょうか、簡単に説明しますと、
例 手元に10万円のお金があります。商品Aを10万円にて現金で仕入れ、これを12万円にて販売しました。
販売代金を現金でもらうことができれば、すぐに次の仕入れを行うことができますが、企業間では信用取引(企業同士が商品やサービスを提供し、その代金の支払いを一定期間猶予する取引形態)となることが多く、業界によっても差はありますが、売上代金の回収までには、1か月から2か月程度を必要とします。この間営業活動を停止するわけにはいきませんので、次の仕入をするための現金を用意する必要が出てくるのです。
②成長の加速
皆様は、ローンを組んで車・家などのモノの購入や、旅行などのサービスの提供を受けたことがあるかと思います。なぜ、金利を支払ってでもローンを組むのか、それは1日でも早くモノの購入やサービスの提供を受けることで、自分の希望するライフスタイルを実現するためだと思います。
企業が創業融資を受けることも同じような理由だと思います。企業にとっては他社に先んじてビジネスを展開することで成長を加速させることができます。創業融資を活用して新しい市場に参入したり、製品開発を迅速に進めたりすることで、競合他社との差別化を図り、業界内での地位を確立することができます。
また、余裕ある運転資金を確保しておくことは、経営者の経済的な安心感を得ることができます。資金が確保されていることで、経営者は長期的な視点でビジネスを運営することができ、短期的な資金繰りに追われることが少なくなります。その結果、より戦略的な判断を下し、ビジネスの成長を促進することができるのです。
③信頼性の向上
会社概要に取引銀行名が記載されている企業のホームページやパンフレットをご覧になったことがあるかと思います。なぜ取引銀行名を記載しているのか、その理由の一つとは、銀行と取引ができていることを示すことで企業の信頼性を向上させることが期待できるからです。
どの企業であっても新しい会社と取引を開始することには慎重な検討が必要となります。創業したての企業との取引であればなおのこと慎重な検討が必要です。その際に、銀行との取引があることで相手先は一定の信頼感を持つことができます。
なぜならば、銀行は、反社会的勢力との取引を避けるために、顧客審査プロセスを厳格に行いますし、企業の活動を継続的にモニタリングし、不審な取引やリスクの高い行動を検出するためのシステムを持っています。そのため、銀行から融資を受けている企業は、銀行の厳しい審査を通った企業であり、企業のビジネスモデルや成長戦略が評価されていることを示すことができます。
また、融資を受けることで銀行の専門知識やネットワークを活用することができます。銀行は、資金提供だけでなく、ビジネスに関するアドバイスや人脈の紹介など、様々なサポートを提供してくれます。これにより、企業はより効率的に成長し、成功する可能性が高まるのです。
創業融資を受けるタイミングはいつが良いのか?
では、創業融資はいつ受けるのが良いのでしょうか?創業融資を受けるタイミングについては議論の余地があり、すぐに受けるべきか、あるいは1年後などある程度事業の実績を出してから受けるべきかについて考える必要があります。以下に、そのメリットとデメリットについて説明します。
(1)創業後すぐに創業融資を受ける場合
①メリット
- 早期の資金確保:創業時にすぐに融資を受けることで、初期投資や運転資金を迅速に確保できます。これにより、事業の立ち上げがスムーズに進み、設備投資やマーケティング活動を積極的に行うことが可能となります。
- 早期の成長促進:初期段階から十分な資金を持つことで、事業の成長を早めることができます。新製品の開発や市場拡大など、成長戦略を迅速に実行できるため、競争力を高めることができます。
- キャッシュフローの安定:早期に融資を受けることで、日々のキャッシュフロー管理がより容易になります。資金不足による経営リスクを減少させ、安定した経営基盤を築くことができます。
②デメリット
- 早期のプレッシャー:融資を受けると、返済義務が発生します。事業がまだ安定していない初期段階での返済負担は、経営にプレッシャーを与えることがあります。
- 過剰な資金調達のリスク:必要以上の資金を早期に調達することで、資金の無駄遣いや不適切な投資に繋がるリスクがあります。事業計画が十分に練られていない場合、資金の効果的な運用が難しくなることがあります。
(2)1年後に創業融資を受ける場合
①メリット
- 事業の成熟度の向上:1年間の事業運営を経ることで、事業の方向性や成長可能性が明確になります。これにより、融資が必要なタイミングや金額をより正確に見極めることができます。
- 実績をもとにした融資申し込み:1年間の運営実績があると、融資を受ける際に信用度が向上し、有利な条件で融資を受けやすくなります。実績をもとにした計画的な資金調達が可能となります。
②デメリット
- 決算書・試算表による判断:創業してから1年近くなってしまうと、試算表もしくは決算書の事業実績をもとに融資判断がされるため、業況によっては審査で落とされてしまいます。
- 資金調達の遅れ:1年間の自己資金や売上だけで事業を運営することは、資金繰りに大きな負担をかけることがあります。資金不足による成長の遅れや機会損失が発生する可能性があります。
- 競争力の低下:早期に資金を調達できない場合、競合他社に対して劣勢に立たされるリスクがあります。市場での競争が激化する中で、迅速な資金調達が成長の鍵となることも少なくありません。
(3)過去の相談事例からの考察
創業後すぐに創業融資を受ける場合、実績を出してから融資を受ける場合の双方にメリット・デメリットはあるのですが、過去の経営者からの相談事例から判断しますと、決算書・試算表により判断されるというデメリットを強く感じることが多いです。
実は銀行を投資家と同じように企業の将来性を評価して融資をしてくれる、と考えている経営者も多いのですが、実際には銀行は将来性(未来)よりも実績(過去)をより大きなウェイトで評価します。未来の予想よりも過去の評価のほうが簡単に行うことができるからです。
創業してすぐの場合は、事業としての実績や経営者としての能力を評価しづらいため、経営者の過去の勤務経験や事業計画の内容、真剣さ、などで審査してくれますが、実際に事業の実績が出てきてしまうと、どんなに夢のある事業計画を作ったとしても、実績のほうを評価されることとなります。事業計画通りに事業を進めることができず、資金不足となったときには、銀行からの融資も受けづらいということになってしまいます。
企業の現状と将来のビジョンを踏まえた上で、最適なタイミングで創業融資を受けることが重要ではありますが、融資の受けやすさを重視し、創業してすぐのタイミングで創業融資にチャレンジすることをお勧めします。
最後に
企業が倒産する原因は「赤字だから」と考えられがちですが、現実には「資金がないから」倒産するのです(確かに赤字が続くことは問題なのですけども!)。
「創業してすぐに倒産って何なの?縁起でもない。」と思われるかもしれませんが、一般的には創業から1年後には約3割の会社や個人事業主が廃業すると言われています。自己資金として準備していた資金はあっという間になくなり、その後の資金調達に苦労され、営業、製造などの本来のビジネス活動できない経営者の姿も散見されます。
そうならないためにも、早めの創業融資をぜひご検討ください。
記事監修者紹介
本記事は、創業支援や資金調達に豊富な実績を持つ**みらいアーク株式会社(Mirai Arc Inc.)**の監修を受けて作成されています。みらいアーク株式会社は、創業希望者やスタートアップ企業の成長を支援するため、融資のサポートから経営コンサルティングまで幅広く対応。経験豊富なコンサルタントチームが、数多くの成功事例をもとにアドバイスを提供しています。