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事業承継

M&Aの必要書類と契約書:スムーズな書類作成手続きの解説

2024.05.09

M&A(合併・買収)は企業戦略の重要な一環ですが、成功するには適切な書類作成が不可欠です。この記事では、M&Aプロセスで必要な書類や契約書について、手順と共に詳細に解説します。

M&Aの必要書類・契約書とタイミング

M&A検討フローをもとにした契約書や書類

M&A(合併および買収)プロセスでは、様々な段階ごとに特定の書類や契約書が必要となります。このプロセスを開始するにあたり、最初に結ばれるのが秘密保持契約書 (NDA: Non-Disclosure Agreement) です。これは、双方が交換する機密情報を保護するためのもので、この契約によって安心して情報の共有が可能になります。

次に、双方の関係を正式にするためのアドバイザリー契約書仲介契約書が結ばれます。これらは、M&Aのアドバイザーや仲介者との間でサービスの提供条件や報酬に関する合意を定めるものです。

その後、潜在的な買収対象のリストを作成します。このリストはロングリストと呼ばれ、広範な候補を含みます。検討を進める中で、より詳細な分析を行い、最も適合すると思われる少数の候補に絞り込んだショートリストを作成します。この段階で、より具体的なデューデリジェンス(買収対象の調査)が行われ、買収を進める価値があるかどうかを評価します。

秘密保持契約書

秘密保持契約書は、M&A取引の初期段階で最も基本的かつ重要な書類の一つです。この契約により、買収候補企業は自社の機密情報を開示することに同意しますが、その情報が第三者に漏れることなく保護されることを保証します。秘密保持契約書には、どの情報が機密とされるか、その情報がどのように使用されるか、そしてどのような状況下で情報が共有されるかが明記されています。この契約は、双方が信頼関係のもとで交渉を進めるための土台となります。

▶参照元 中小企業庁

アドバイザリー契約書、仲介契約書

アドバイザリー契約書および仲介契約書は、M&Aプロセスにおける専門家の役割と責任を定める重要な文書です。アドバイザリー契約書は、財務アドバイザーや法律アドバイザーなど、取引をサポートする専門家との間で結ばれます。これにより、アドバイザーの提供するサービスの範囲、報酬の条件、そして秘密保持の義務などが定められます。一方、仲介契約書は、買収対象の探索や取引の仲介を行うエージェントやブローカーとの間で結ばれ、彼らの役割、報酬、および取引成立に向けた条件などが記載されます。

▶雛形 アドバイザリー契約書、仲介契約書

 

ロングリスト/ショートリストの作成

ロングリストの作成は、M&Aプロセスにおける初期段階で行われる重要なステップです。これにより、買収候補となる企業の広範なリストが作成されます。その後、より詳細な分析を経てショートリストへと絞り込まれます。ショートリストに選ばれた企業は、さらに徹底的なデューデリジェンスの対象となり、買収の候補として最終的に選ばれるかどうかが決定されます。このプロセスを通じて、買収側は最適な買収対象を見つけ出し、成功に導くための戦略を練り上げます。

これらのステップを踏むことで、M&A取引はよりスムーズに、かつ効果的に進行します。それぞれの段階で必要となる契約書や書類の正確な理解と適切な準備が、成功への鍵となります。

M&Aの候補先への打診で必要となる書類・契約書

ノンネームシート

ノンネームシートは、企業の秘密保持のために用いられる文書で、候補企業の名前を伏せた状態で、概要情報を共有します。これにより、情報の漏洩リスクを最小限に抑えながら、潜在的な取引相手が興味を持ちそうな基本的なビジネス情報を提供できます。ノンネームシートには、業界、ビジネスモデルの概要、財務状況の概略(具体的な数値は除く)、市場でのポジショニング、成長潜在性などの情報が含まれます。この文書は、相手方が興味を持つかどうかを判断する最初のステップとなるため、魅力的かつ簡潔に情報をまとめることが重要です。ノンネームシートを用いることで、双方の間で初期の信頼関係を築き、次のステップへと進むための基盤を作ります。

企業概要書

企業概要書は、企業の全体像をより詳細に伝えるための文書です。ここでは、企業の歴史、組織構造、主要な製品やサービス、市場での競争力、財務状況の詳細、将来戦略など、より深く掘り下げた情報を提供します。企業概要書は、潜在的な取引相手に対して、なぜこの企業が魅力的な投資先または合併・買収の対象となるのかを説得力を持って伝えるために用います。具体的な財務データ、市場分析、競合との比較、成長戦略などを含めることで、相手に対し十分な情報を提供し、関心を引きます。企業概要書の精度と信頼性は、M&Aの成功に直結するため、細心の注意を払って作成する必要があります。

意向表明書

意向表明書(Letter of Intent、LOI)は、取引に対する一方の当事者の真剣な関心と、初期条件や意向を文書化したものです。この文書は、正式な契約に先立ち、双方が交渉を進める意向があることを示します。意向表明書には、取引の範囲、予想される価格帯、実行のタイムライン、専有交渉権の要求、デューディリジェンスの条件など、取引の基本条件が記載されます。この段階では、まだ正式な合意に至っていないため、多くの場合、法的拘束力は伴いませんが、取引の枠組みを形作る上で重要な役割を果たします。意向表明書は、双方が真剣に取引を検討していることを示し、後続の交渉に向けての基盤を作ります。

デューディリジェンス(DD)における書類

デューディリジェンスは、M&A取引において、買収対象企業の財務状況、法務状況、事業の実態などを詳細に調査する過程です。この過程で用いられる書類には、財務報告書、契約書類、従業員の情報、知的財産権に関する文書、法的紛争の記録などがあります。デューディリジェンスは、買収後に予期せぬ問題が発生するリスクを最小限に抑えるために不可欠です。これらの書類を通じて、買収を検討している企業は、対象企業の価値を正確に評価し、取引の条件を最終的に決定します。デューディリジェンスの過程は、M&A取引の成功において最も重要なステップの一つであり、この段階で明らかになった情報は、最終的な取引条件の交渉に大きく影響を与えます。

▶雛形 事業譲渡に関する基本合意書(デューディリジェンス先行型)

売り手企業・買い手企業の双方に関わる書類

M&A取引において、成功への道は正確で透明な情報交換にかかっています。売り手と買い手の間で交わされる重要な書類は、この過程を円滑に進め、双方にとって公平な取引を確保するための基盤となります。特に、基本合意書と最終契約書は、M&A取引の核心を成す文書です。

基本合意書

基本合意書(MOU:Memorandum of Understanding)は、M&A取引における初期段階で交わされる文書であり、売り手と買い手の間での基本的な合意内容をまとめたものです。この文書では、取引の概要、売買の対象となる資産や株式、買収価格の基準、デューデリジェンスの範囲と期間、排他的交渉期間の設定、および取引完了までの概略的なスケジュールなどが定められます 。

基本合意書の目的は、双方が取引の主要な条件に基本的な合意を達成したことを文書化することにあります。しかし、この段階では全ての詳細が最終決定されているわけではなく、デューデリジェンスの結果や追加交渉により、条件が変更される可能性があります。基本合意書は法的拘束力は限定的ですが、取引の進行において重要なマイルストーンとなります。

▶雛形 基本合意書

最終契約書

最終契約書(DA:Definitive Agreement)は、M&A取引の最終段階で交わされる、法的拘束力を持つ契約書です。この文書では、取引の全ての詳細が定められ、買い手と売り手の双方が合意した最終的な条件が記載されます 。最終契約書には、買収価格の確定方法、支払条件、買収後の経営構造、保証や補償の条件、責任分担、取引の完了条件など、取引に関わる全ての重要な事項が詳細に記述されます。

デューデリジェンスの結果を踏まえ、最終契約書には取引の成立に必要な細かい内容が含まれ、売り手と買い手はここで最終的な合意に至ります。最終契約書の締結は、M&A取引が正式に成立したことを意味し、以後はこの契約に基づいて取引が進められます 。

基本合意書と最終契約書は、M&A取引を成功に導くための重要なステップです。これらの書類を通じて、売り手と買い手は互いの期待と義務を明確にし、取引の透明性と公正性を高めることができます。適切に準備され、丁寧に交渉されたこれらの文書は、M&A取引のリスクを最小限に抑え、双方にとって最良の結果をもたらすことになります。

 

最終契約書の名称はM&A手法によって変わる

M&A(合併・買収)取引における最終契約書は、その取引の形態や目的によって多様な名称を持ちます。この文書は、買い手と売り手の間で交渉されたすべての詳細事項、条項、条件を最終的に定めるためのものです。この契約書は、取引が実行段階に移行する前の最後の確認点として機能し、両当事者間の合意を正式に文書化します。

株式譲渡契約書(Stock Purchase Agreement)

株式譲渡契約書は、一方の当事者が他方の当事者から企業の株式を購入する場合に用いられる最終契約書です。このタイプの取引では、買い手は売り手から企業の株式を購入し、企業の所有権を取得します。株式譲渡契約書は、取引条件、購入価格、支払い条件、保証および表明、およびその他の取引に関連する条項を含みます。

▶雛形 株式譲渡契約書

事業譲渡契約書(Asset Purchase Agreement)

事業譲渡契約書は、買い手が売り手から企業の特定の資産を購入する場合に使用されます。このタイプの取引では、買い手は企業全体ではなく、特定の資産や負債を取得することになります。事業譲渡契約書は、譲渡される資産の詳細、購入価格、資産の引き渡し条件、保証および表明など、資産取得に関する全ての条件を定めます。

▶雛形 事業譲渡契約書

合併契約書(Merger Agreement)

合併契約書は、二つ以上の企業が合併して一つの法人を形成する場合に締結されます。合併により、ある企業が別の企業に完全に吸収されることがあり、その結果、吸収された企業は法的に消滅します。合併契約書は、合併の条件、合併後の企業構造、株式の交換比率、および合併に関連するその他の法的および財務的条件を詳細に記載します。

各種最終契約書は、取引の種類に応じてその名前が変わりますが、共通するのはすべての当事者にとって公平かつ透明な取引条件を設定し、正式な合意に至るための文書であるという点です。これらの契約書は、M&A取引を成功に導くための重要なステップであり、適切な法的枠組みのもとで精密に作成される必要があります。

▶雛形 合併契約書

まとめ

M&A取引の成功は、適切な書類と契約書の準備にかかっています。本ブログでは、M&Aの検討フローに沿った主要な文書の概要を紹介しました。初期段階では、秘密保持契約書やアドバイザリー契約書が重要であり、取引の透明性と安全性を確保します。ロングリストやショートリストの作成は、適切な候補先を絞り込む上で不可欠です。

M&A候補先への打診には、ノンネームシートや企業概要書、意向表明書などが必要であり、これらは候補企業との初期の関係構築に役立ちます。デューディリジェンスのプロセスでは、事業の真の価値を把握するために、財務、法務、事業運営に関する詳細な調査が行われます。

最終的に、基本合意書と最終契約書が締結されます。これらは取引の核心を成し、売り手と買い手の間で合意された条件を正式に文書化します。特に最終契約書は、M&Aの手法によってその名称が異なることがあり、株式譲渡契約書、事業譲渡契約書、合併契約書などがあります。

M&A取引を進めるにあたり、これらの書類と契約書は各段階での重要な意思決定を支援し、リスクを最小限に抑えるとともに、取引の成功を確実なものにします。適切な準備と理解をもって進めることで、売り手も買い手も望む成果を得ることができるでしょう。

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