法人融資を通すポイントは返済可能性と成長ストーリーを数字で示すことです。2025年は低金利とDXの進展によって、借り入れ方法は銀行・ネット銀行・ノンバンク・クラファンまで選択肢が拡大しています。
本記事では融資を受けるための事業計画書の目的と、審査に強い構成要素、セクション別の書き方とNG例、金利・枠・期間の条件改善につながる作り方などを、サンプルKPIとともに解説します。
これから調達を検討する経営者・財務担当者の方はぜひご覧ください。
融資のために事業計画書を書く目的
事業計画書は「返せる根拠」と「成長の再現性」を客観的に伝えることで、良い条件を引き出すための交渉資料です。ここでは、良い条件を引き出せる事業計画書を作成する際のポイントを解説します。
返済可能であることを客観的に示す
売上計画・粗利・固定費・税社保を踏まえた月次CFで、元利返済を織り込んだ余裕度を提示しましょう。
KPI(客単価・成約率・回転日数)と過去実績をリンクさせ、「確実に返せる根拠」を数式で示します。与信側が再現性を評価できる粒度まで落とし込むのがコツです。
資金使途の妥当性を証明する
借入金を「どこへ、いくら、いつ使い、何が改善し、いつ回収するか」を分解しましょう。広告ならCPA→LTV、設備なら稼働率・歩留まり、在庫なら回転日数短縮など、投入→効果→回収の線を数値で結びます。
運転資金一式はNGです。科目ごとに根拠を明確化しましょう。
事業の成長性と市場機会を伝える
TAM/SAM/SOM、市場成長率、顧客セグメント、競合構図をデータで提示しましょう。
自社優位(差別化要因・参入障壁・再現性ある獲得導線)を結論先出しで示して、拡大余地と実現手段を一本化します。「誰に何をどう売るか」が30秒で伝わる構成にするのが重要です。
経営者の信頼性をアピールする
経営者や主要メンバーの経歴・実績・資格・受賞歴、さらに参画した主要プロジェクトを具体的に記載し、信頼性を数値や事例で裏付けます。加えて、チーム全体の役割分担と代替性を整理することで、キーマンリスクを軽減している点を示すことが重要です。
内部統制の仕組みや、税理士・社労士・弁護士など外部専門家の顧問体制を明記すれば、ガバナンスや執行能力が可視化されます。金融機関が「人に貸す」観点で抱きやすい不安を先回りして解消できる構成に整えるようにしましょう。
有利な融資条件を引き出す交渉材料にする
金利水準、限度額、返済期間、据置期間といった条件面の根拠を、事業計画書に体系的に盛り込みます。その際、補助金や助成金の採択見込み、信用保証協会付保の可能性、担保余力の評価など、金融機関側のリスクを軽減できる要素を束ねて提示すると効果的です。
これにより、総返済額の圧縮や金利優遇、枠拡大といった有利な条件を引き出す交渉カードとなります。また、複数シナリオ(標準・保守・ストレッチ)を準備して、代替案を提示することで交渉幅を確保し、柔軟な条件設定につなげられるでしょう。
融資審査に強い事業計画書の7つの要素
融資審査を通すには、事業計画書を「要約→市場→収益構造→3〜5期計画→使途/返済→体制→リスク」の順で構成し、一貫性を保つことが重要です。以下の7つの要素をしっかりと覚えましょう。
明確な事業概要
冒頭の事業概要は一枚で把握できるサマリーに仕上げましょう。誰に(ターゲット)・何を(提供価値)・どうやって(手段やチャネル)・いくらで(単価)・なぜ勝てるか(競争優位性)を、30秒で理解できる文章にまとめることが理想です。
主要なKPIやマイルストーンを箱図やフロー図にして添えると直感的に伝わりやすく、金融機関担当者が全体像を素早く掴めます。
市場規模と競合分析
市場機会の裏付けは必須です。TAM(市場全体)、SAM(到達可能市場)、SOM(自社が獲得可能な市場)の規模や成長率を明示し、根拠となるデータソースを提示します。さらに、競合ベンチマークとして、価格・機能・チャネル・シェアなどを比較表で整理しましょう。
仮説と事実を明確に分けて自社がどこにポジションを取れるのかを可視化することが、審査担当者の信頼を得るポイントです。
ビジネスモデルの収益構造
収益性を端的に示すため、単価×数量×成約率から粗利益を算出し、可変費・固定費を差し引いた利益式を提示します。併せてチャネル別の獲得単価や、顧客生涯価値、解約率、回収期間も明記し、持続的に利益が出る仕組みであることを説明しましょう。
ユニットエコノミクスの妥当性を見せることで、融資後の返済可能性が高いと評価されやすくなります。
売上・利益計画(3–5期)
売上・利益計画は、ベースシナリオ、ターゲットシナリオ、保守シナリオの三本立てで設計しましょう。流入数・成約率・継続率などのKPIドライバーごとに積み上げ、3〜5年先までの売上・利益の推移を明示します。
さらに、感度分析で前提条件を10%変動させた場合の上下振れを示せば、リスクを織り込んだ現実的な計画であることを金融機関に伝えられるでしょう。
資金使途と返済計画
借入資金がどのように成果を生んで、最終的に返済原資になるのかをフローで示します。「借入→施策→成果→キャッシュフロー→返済」の流れを図解し、据置期間や返済年数、繰上返済の方針も明記しましょう。
さらに返済安全余裕率や資金繰り表を添付して、返済に十分な余裕があることを具体的に示すことで、金融機関の安心材料になります。
組織体制・経営者プロフィール
事業を実行するチーム体制を明確に示すことが重要です。経営者や主要メンバーの経歴や実績、専門性を列挙して、責任分担や権限を整理しましょう。
今後の採用計画や教育体制も添えると拡張性が伝わります。また、税理士や社労士など外部専門家の活用も明記し、キーマン不在時の代替策を提示することで、持続的に事業を運営できる信頼性を高められるでしょう。
リスク分析と対策
主要なリスクを発生確率×影響度でマトリクス化して、優先順位をつけて整理します。需要減少、供給網の途絶、資金繰り悪化、法規制の変更、人材流出などカテゴリ別に洗い出し、回避・低減・移転・受容といった対応方針を示すことが重要です。
さらに、発生時のトリガーやアクションプランを添えれば、想定外の事態にも備えた堅実な事業運営計画として評価されます。
セクション別の書き方ガイド&NG例
事業計画書は図表で要点を先出しして、数値と事例で裏付けをおこなうことが重要です。曖昧な表現や、根拠が不明な記載、過度に楽観的な展望は書かないようにしましょう。
事業概要・ミッション
冒頭は1枚図解で「提供価値→顧客→収益源」の流れを明示しましょう。説明は動詞主体で簡潔に書き、抽象的な言葉の連続は避けるのが重要です。
加えて、実績や事例を具体的な数値とともに提示すれば、金融機関の担当者が瞬時に理解しやすくなるでしょう。強調ポイントは「誰に何をどのように届け、なぜ利益を生み出せるのか」を30秒で把握できることです。
市場・競合分析
市場分析は統計データとSWOTを組み合わせ、機会と脅威を分解します。市場規模や成長率は信頼できる公的データや調査会社の数値を引用し、出典と更新日を必ず明示しましょう。
競合比較では価格・機能・チャネルごとに整理し、自社の差別化ポイントを明確に示すことが重要です。仮説と実データは区別して記載して、裏付けのない数字は避けることが求められます。
ビジネスモデル
顧客導線を「認知→獲得→収益化→継続」の流れで図示し、事業の仕組みを直感的に理解できるようにします。収益ロジックに欠落があると、審査担当者は不安を感じやすいため注意が必要です。
加えて、CAC(顧客獲得コスト)とLTV(顧客生涯価値)を比較して、解約率や回収期間も記載すると、ユニットエコノミクスに基づいた自走性のあるモデルであることを示せます。
売上・利益計画
売上計画は「数量×単価×成約率」の積み上げで明確に示し、利益計画とリンクさせます。さらに、感度分析を取り入れ、前提条件が変動した場合の上下幅を可視化すれば、現実性が高まるでしょう。
特に金融機関に対しては、楽観シナリオだけでなく保守的な見通しも併記することが信頼獲得につながります。各前提条件は脚注で明示して、透明性を確保することが重要です。
資金使途・返済計画
資金の使途は「広告300万」「内装500万」など明細化して記載し、用途の不透明さを排除します。さらに、キャッシュフロー表で資金投入から返済原資に至る流れを可視化して、返済可能性を示すのが重要です。
「運転資金」と一括りにするのはNGです。据置期間・返済年数・繰上返済の方針も添えて、金融機関が安心できる返済シナリオを提示しましょう。
リスク・対策
主要リスクは上位3つに絞り、発生確率と影響度で優先順位を整理します。需要減少、仕入価格上昇、資金ショートなどを例示して、それぞれに責任者・期日・モニタリング指標を設定しましょう。
対応策は回避・低減・移転・受容に分けて提示し、リスクが顕在化した場合の代替案まで記載することが必須です。未記載や曖昧な表現は信頼を損なうため避けましょう。
補足資料(図表・KPI)
文章だけでなく折れ線・棒・ファネルなどの図表を活用し、情報を直感的に伝えることが有効です。長文だらけでは可読性が落ち、審査担当者に負担を与えます。
添付資料には必ず原データの出典や更新日を明示し、数値の信頼性を担保しましょう。主要KPIをグラフ化すれば、事業の成長性や改善傾向が一目で伝わり、計画書全体の説得力が高まります。
融資を通すための事業計画書の注意点
数字の裏付け、現実的な前提、資金使途の具体化、この3点を押さえるか否かが、融資審査の通過率と条件面を左右します。以下に記載する注意点に気をつけて記載していきましょう。
数字と過去実績をしっかりそろえる
決算書、試算表、POSデータ、受注残、入金実績をリンクさせ、会計とKPIの整合性を示すことが重要です。月次推移で改善軌跡を可視化して、黒字転換や売上成長の根拠を数字で裏付けましょう。
金融機関は過去の信頼性を重視するため、実績と将来計画が論理的に接続されているかどうかを確認します。定量データを欠く計画書は説得力を失うため注意が必要です。
リスクを甘く見ず、計画を現実的に立てる
楽観的な前提だけでは評価されにくいため、保守シナリオを必ず併記します。在庫コストの上振れ、為替変動、人件費の増加など、想定されるマイナス要因を織り込みましょう。
そのうえで、実行可能な施策に落とし込むことで、事業計画が現実的であることを示せます。「できることから確実に行う姿勢」を強調することが金融機関の安心につながるでしょう。
お金の使い道をはっきり示す
借入金の用途は科目別・時期別・ベンダー別に具体的に分解して、見積書や契約書と紐付けて記載します。発注計画や支払いスケジュールも明示し、回収計画と整合を取ることが必須です。
用途を「運転資金」と曖昧にまとめないようにしましょう。金融機関が納得できる形で使途を示すことで、資金の透明性と返済の確実性を同時に担保できます。
正しく事業計画書を用意して融資を有利に受けよう
計画書は「返済原資の見える化」と「資金使途の妥当性」を示す最強の交渉材料です。7要素を外さず、図表とKPIで再現性を担保すれば、通過率と条件は両立します。
主要銀行との関係を深め、補助金・保証・担保を適切に組み合わせ、総返済額最小化の視点で資金戦略を完成させましょう。