プロジェクトマネージャー(PM)に求められるスキルといえば、技術的な知識やツールの習熟度を思い浮かべる人は多い。しかし複数の調査データが示すのは、それとは異なる現実だ。プロジェクトの成否を左右する最大の要因は「問題解決力」であり、技術力はその次に位置するという実態が、国内外の調査から浮かび上がっている。本記事では、エビデンスに基づきながら、PMが問題解決力を鍛えるための具体的なアプローチを解説する。
1. データが示す「技術力では足りない」現実
国内調査:ITプロジェクト炎上防止に必要なスキルの実態
株式会社EdWorksが2025年11月、情報通信業に従事する技術系人材1,003名を対象に実施した「ITプロジェクトに関する実態調査2025」によると、ITプロジェクトでスケジュール・品質・コストのいずれかに問題が発生した経験を持つ人は全体の66%に上った。
注目すべきは、「炎上を防ぐためにエンジニア側に求められる最も重要なスキル」を1つ選んでもらった設問の回答だ。その結果、「コミュニケーション力」が38%でトップ、次いで「問題解決力」が34%、「技術力」はわずか13%にとどまった。
さらに、開発フェーズに起因する炎上であっても「技術力でカバーできる」と考える人はわずか27%に過ぎず、炎上防止において技術力よりもソフトスキルが重視される実態が定量的に示された。
(出典:株式会社EdWorks「ITプロジェクトに関する実態調査2025」2025年11月)
PMのスキル不足が招く「名ばかりPM」問題
株式会社ネオマーケティングが2020年1月、全国の25〜59歳のプロジェクト制度がある企業に勤めるビジネスパーソン1,200名を対象に実施した「プロジェクト推進に関する意識調査」では、プロジェクトメンバーの67.6%が「スキル不足のPMが多い」と回答。また64.9%が「自社のPMは名ばかりPMだ」と感じていることも明らかになった。
PMが原因でプロジェクトが迷走・炎上した経験があると回答したプロジェクトメンバーは38%。その主な原因として「合意形成ができていなかった(48.9%)」「進捗の見える化ができていなかった(41.7%)」「計画・目標設定能力が不足(39.8%)」が上位に挙がっており、いずれも技術力ではなくマネジメント・問題解決力に関わる要素が占めている。
(出典:株式会社ネオマーケティング「プロジェクト推進に関する意識調査」2020年2月)
PMI(国際プロジェクトマネジメント協会)の提言
世界最大のプロジェクトマネジメント専門機関であるPMI(Project Management Institute)は、2023年版「Pulse of the Profession®:Power Skills, Redefining Project Success」において、3,500名以上のプロジェクトプロフェッショナルを対象にした調査結果を発表した。
同調査では、プロジェクト成功に最も重要な「パワースキル(Power Skills)」として、コミュニケーション(68%)、問題解決力(65%)、コラボレーティブリーダーシップ(62%)、戦略的思考(58%)が上位に挙がった。
また、パワースキルを優先している組織では、プロジェクト管理成熟度が高い割合が64%に達する一方、パワースキルを軽視している組織では同割合が32%にとどまった。さらに、パワースキルを重視する組織は組織の俊敏性(アジリティ)でも51%対16%という大きな差が確認されている。
(出典:PMI「Pulse of the Profession® 2023: Power Skills, Redefining Project Success」)
2. なぜ「問題解決力」がPMに求められるのか
プロジェクトの現場には、常に想定外の事態が発生する。スコープの変更、リソース不足、ステークホルダー間の意見対立、技術的なトラブル……PMはこれらを一つひとつ解決しながら、プロジェクトを目標地点まで導かなければならない。
ここで重要なのは、「問題解決力」は単なる「トラブル対処能力」ではないという点だ。問題解決力とは、以下の能力を包含する複合的なスキルである。
- 問題の本質を見抜く力(表面的な症状ではなく根本原因の特定)
- 情報を構造化・整理する力(論理的思考・ロジカルシンキング)
- 複数の選択肢を評価し意思決定する力(クリティカルシンキング)
- 解決策を実行に移し検証するサイクルを回す力(仮説検証・PDCA)
- 関係者と合意を形成する力(コミュニケーション・ファシリテーション)
技術力はあくまで「手段」であり、問題を特定し解決策を導き出す「思考の枠組み」がなければ、どれほど優れた技術力も生かされない。PMI 2023年報告書でも「技術スキルは重要だが、最終的にプロジェクトは人間が行うものであり、人と人の相互性を理解することが不可欠だ」と指摘されている。
(出典:PMI「Pulse of the Profession® 2023: Power Skills, Redefining Project Success」)
3. 問題解決力を構成する4つのコアスキル
① 問題の「本質」を正確に定義する力
多くのプロジェクトが失敗する原因の一つが、「問題の定義の曖昧さ」にある。前述のEdWorks調査でも、炎上要因として要件定義フェーズを挙げた回答が55%、設計フェーズが51%と、前工程での定義不足が後工程の炎上を引き起こす実態が確認されている。
問題を正確に定義するためには、「現状(As-Is)」と「あるべき姿(To-Be)」のギャップを明確化し、そのギャップを引き起こしている根本原因(Root Cause)を特定することが求められる。
(出典:株式会社EdWorks「ITプロジェクトに関する実態調査2025」2025年11月)
② 根本原因を特定する「なぜなぜ分析(5 Whys)」
根本原因分析の代表的な手法が「なぜなぜ分析(5Whys)」だ。問題に対して「なぜ?」を繰り返すことで、表面的な原因から根本原因へと掘り下げていく手法であり、プロジェクトマネジメントの現場でも広く活用されている。例えば「スケジュールが遅延した」という問題に対して、5回の「なぜ?」を問うことで、単なる「担当者の作業遅れ」ではなく「要件変更の頻発を引き起こす合意形成プロセスの欠如」という根本原因に辿り着くことができる。
③ 構造的に思考するフレームワークの活用
問題を構造的に捉えるためのフレームワークとして代表的なものに以下がある。
- ロジックツリー:問題を要素に分解し、原因や解決策を網羅的に洗い出す手法
- MECE(ミッシー:Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive):「漏れなく、ダブりなく」情報を整理する原則。問題の全体像を把握するために有効
- 特性要因図(フィッシュボーン分析):結果(問題)と原因の関係を視覚的に整理する図解手法
これらは特定の技術的スキルを必要とせず、体系的に訓練・習得できるスキルである。
④ 仮説思考:限られた情報で「暫定解」を導く力
PMの仕事においては、情報が不完全な状態でも意思決定を行わなければならない場面が多い。そこで有効なのが「仮説思考」だ。仮説思考とは、限られたファクトをもとに暫定的な結論(仮説)を立て、それを検証・修正しながら解を精緻化していくアプローチである。
コンサルティングの現場でも活用されているこの思考法は、PMが問題解決の方向性を素早く定め、チームを動かすうえで非常に有効である。「全ての情報が揃ってから動く」のではなく、「現時点で最も妥当な仮説を立て、行動しながら検証する」姿勢がプロジェクト現場では求められる。
4. 問題解決力を鍛える実践的アプローチ
アプローチ①:問題解決の「型」を身につける
問題解決は、感覚や経験則に頼るのではなく、再現性のある「プロセス」として習得することが重要だ。基本的なプロセスは以下の5ステップで構成される。
- 問題の特定(WHERE):何が問題なのかを正確に定義する
- 原因の分析(WHY):なぜその問題が起きているのかを掘り下げる
- 解決策の立案(HOW):根本原因に対する打ち手を複数検討する
- 実行(DO):最も効果的な解決策を選択し実行に移す
- 評価・改善(CHECK/ACT):結果を検証し、必要に応じてアプローチを修正する
この5ステップはPDCAサイクルとも親和性が高く、継続的な改善を促す実践的な枠組みとして機能する。
アプローチ②:日常業務での「問いを立てる習慣」
問題解決力の基盤となるのは、「なぜ?」「本当にそうか?」と問い続ける思考習慣だ。日常のプロジェクト推進においても、「この遅延の根本原因は何か」「ステークホルダーが本当に求めているものは何か」「この解決策に抜け漏れはないか」と自問する習慣を意識的に身につけることが、問題解決力の向上につながる。
アプローチ③:振り返り(レトロスペクティブ)の定期実施
プロジェクト終了後やフェーズ区切りで定期的に「振り返り」を行うことも、問題解決力の向上に有効だ。「何がうまくいったか」「何がうまくいかなかったか」「次回どう改善するか」を構造的に整理することで、経験から学ぶ能力(学習能力)が高まり、次のプロジェクトでの問題解決精度が向上する。
アプローチ④:パワースキルのトレーニングへの投資
PMI 2023年報告書は、組織が技術スキルのトレーニングに年間予算の51%を投じている一方、パワースキル(問題解決力・コミュニケーションなど)への投資は25%にとどまっていることを指摘している。また、プロジェクトプロフェッショナル個人レベルでも、専門能力開発の時間の46%を技術スキルに充てる一方、パワースキルへの時間は29%に過ぎない。
組織・個人ともに、問題解決力をはじめとするパワースキルへの意識的な投資が、今後のプロジェクト成功率向上に直結するとPMIは提言している。
(出典:PMI「Pulse of the Profession® 2023: Power Skills, Redefining Project Success」)
5. 「問題解決力」はPMの中核コンピテンシー
PMI「Global Project Management Job Trends 2023」では、採用・育成において最も重視される「クリティカルパワースキル」として問題解決力が全体の65%に支持されており、これは職種・業種・地域・経験年数にかかわらず一貫した傾向であることが示されている。
技術のコモディティ化が進む現代においては、特定ツールや言語の習熟度は陳腐化しやすい。一方、問題を正確に定義し、根本原因を特定し、解決策を実行・検証するという「思考のプロセス」は、技術が変わっても普遍的に価値を持ち続ける能力だ。
プロジェクトマネージャーとしてのキャリアを長期的に築いていくうえでも、技術力の習熟と並行して問題解決力を体系的に磨くことが、今後ますます重要になっていくといえる。
(出典:PMI「Global Project Management Job Trends 2023」)
まとめ
本記事で紹介したデータと考察を整理すると、以下の事実が浮かび上がる。
- ITプロジェクトの炎上防止に最も必要なスキルは「コミュニケーション力(38%)」「問題解決力(34%)」であり、「技術力(13%)」はその下位に位置する(出典:株式会社EdWorks「ITプロジェクトに関する実態調査2025」)
- プロジェクトメンバーの67.6%が「スキル不足のPMが多い」と回答し、炎上の主因はマネジメント・問題解決力の不足とされている(出典:株式会社ネオマーケティング「プロジェクト推進に関する意識調査」2020年)
- PMIは問題解決力をコミュニケーションに次ぐ第2位のパワースキルと位置づけ、パワースキル重視の組織はプロジェクト管理成熟度で2倍の差をつけている(出典:PMI「Pulse of the Profession® 2023」)
- 問題解決力は「5 Whys」「ロジックツリー」「仮説思考」「PDCA」といった実践的なフレームワークによって体系的に習得・向上させることができる
プロジェクトの成功は、技術力だけでは達成できない。問題の本質を見極め、チームと共に解決策を実行し続ける「問題解決力」こそが、現代PMに求められる中核コンピテンシーである。
監修者:
鎌田光一郎:⻘山学院大学法学部卒業。SMBC日興証券株式会社にて証券営業、経営管理業務に従事したのちPwCコンサルティング合同会社に転籍。金融機関に対するコンサルティング業務に従事。その後、Librus株式会社を設立、代表取締役に就任。
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