エンベデッドファイナンス(組み込み型金融) トレンドレポート

2025.07.24

  • column

Librus株式会社
コンサルティングサービス事業部


エグゼクティブサマリー


エンベデッドファイナンス(組み込み型金融)は、非金融事業者が自社のサービスやプラットフォームに金融機能を統合し、顧客に対してシームレスな金融サービスを提供する革新的なアプローチです。この白書では、2025年における市場動向、主要事例、規制環境、および将来展望について包括的に分析します。

主要なポイント:

  • 世界のエンベデッドファイナンス市場は2024年の1,126億ドルから2029年には2,374億ドルに成長見込み(CAGR 16.1%)
  • 北米が最大の市場シェア(29.0%)を占め、アジア太平洋地域が最も高い成長率を記録
  • 決済、融資、保険、投資管理の4つの主要カテゴリーで展開
  • B2Cモデルが高い成長率を示し、若年層と優良顧客の利用意向が特に高い
  • 日本市場では法整備の進展により普及が加速

1. エンベデッドファイナンスの概要


1.1 定義と概念

エンベデッドファイナンス(Embedded Finance)とは、従来金融機関が提供してきた決済、融資、保険、投資などの金融サービスを、非金融事業者のプラットフォームやアプリケーションに組み込み、顧客が金融機関に直接アクセスすることなく金融サービスを利用できるようにするビジネスモデルです。

この概念は、顧客体験の向上と利便性の追求を目的としており、金融サービスを顧客の日常的な活動の中に自然に溶け込ませることで、フリクションレスな取引を実現します。例えば、ECサイトでの購入時に後払いオプションを提供する、ライドシェアアプリ内で運転手への即時支払いを実現するなどが代表的な事例です。

1.2 従来の金融サービスとの違い

従来の金融サービスでは、顧客が特定の金融商品やサービスを利用するために、銀行や保険会社などの金融機関に直接アクセスする必要がありました。一方、エンベデッドファイナンスでは、顧客が普段利用しているプラットフォーム内で金融サービスを利用できるため、以下の利点があります:

  • 利便性の向上: 複数のアプリケーション間を移動する必要がない
  • シームレスな体験: 一連の購買行動の中で金融サービスを利用可能
  • パーソナライゼーション: 顧客の行動データに基づいたカスタマイズされたサービス
  • アクセシビリティ: 金融リテラシーが低い顧客でも利用しやすい

2. 世界市場の動向と規模

2.1 市場規模と成長予測

2024年市場規模: 1,126億ドル

2029年予測規模: 2,374億ドル

年平均成長率(CAGR): 16.1%

長期予測: 2030年までに7.2兆ドルの市場規模に到達見込み


2.2 地域別市場分析

地域市場シェア(2023年)特徴主要プレイヤー
北米29.0%最大市場、技術インフラが充実Stripe, PayPal, Square
ヨーロッパ25.5%規制環境が整備、PSD2の影響Klarna, Adyen, Revolut
アジア太平洋28.2%最高成長率、モバイル決済普及Alipay+, WeChat Pay, Grab
その他17.3%新興市場、金融包摂の課題

2.3 サービス別市場動向

エンベデッドファイナンス市場は主に4つのサービスカテゴリーに分類されます:

2.3.1 エンベデッド決済(Embedded Payments)

市場シェア28.14%で最大のセグメント。ECサイト、アプリ内決済、QRコード決済などが含まれます。2025年までに650億ドルの収益が見込まれています。

2.3.2 エンベデッド融資(Embedded Lending)

BNPL(Buy Now, Pay Later)を中心とした成長セグメント。2025年までに300億ドルを超える市場規模が予測されており、特にB2B分野での成長が期待されています。

2.3.3 エンベデッド保険(Embedded Insurance)

2025年までに700億ドルの市場規模が予想される急成長分野。旅行保険、配送保険、端末保険などが主要用途です。

2.3.4 エンベデッド投資・資産管理(Embedded Investment)

ロボアドバイザー、少額投資サービスが中心。フィンテック企業との連携によるサービス拡充が進んでいます。

3. 世界の主要事例分析


3.1 北米市場の成功事例

Stripe(アメリカ)

決済処理の分野で圧倒的な存在感を示すStripeは、シンプルなAPI統合により、開発者が容易に決済機能を組み込めるプラットフォームを提供。2024年現在、100万社以上の企業が利用し、年間処理額は1兆ドルを超える。

Klarna(スウェーデン)

BNPL分野のパイオニアとして、8,500万人以上の利用者と20万社以上の加盟店を抱える。Marqetaとのパートナーシップにより、各顧客向けにバーチャルカードを生成し、安全でスムーズな購入体験を提供。

PayPal(アメリカ)

4億3,500万人以上のアクティブユーザーを持つPayPalは、決済だけでなく、融資(PayPal Credit)、暗号通貨取引、投資サービスまで統合したエコシステムを構築。

3.2 アジア太平洋地域の革新事例

Alipay+(中国)

アリババグループのアント・グループが運営するスーパーアプリ。決済、投資、保険、融資、生活サービスまで包括的に提供し、10億人以上のユーザーを獲得。

Grab(東南アジア)

ライドシェアから始まったGrabは、現在では決済(GrabPay)、融資、保険、投資まで手がけるフィンテック企業に変貌。東南アジア8カ国で1.8億人以上のユーザーを抱える。

Paidy(日本)

後払い決済サービスのパイオニアとして、メールアドレスと電話番号のみで利用可能なサービスを提供。2021年にPayPalに買収され、更なる成長を遂げている。

3.3 ヨーロッパ市場の特色

Revolut(イギリス)

デジタル専業銀行として出発し、現在では決済、投資、保険、暗号通貨取引まで包括的に提供。ヨーロッパを中心に4,500万人以上の顧客を獲得。

Adyen(オランダ)

統合決済プラットフォームとして、Uber、Netflix、eBayなどの大手企業にサービスを提供。単一のプラットフォームでグローバル決済を実現。

4. 日本市場の現状と展望


4.1 市場環境と法規制の整備

日本のエンベデッドファイナンス市場は、以下の法制度整備により急速に発展している段階です:

  • 2018年銀行法改正: オープンAPIの体制整備が努力義務化
  • 2021年金融サービス仲介業法施行: 単一ライセンスで銀行・証券・保険の仲介が可能
  • 2022年資金決済法改正: 前払式支払手段の規制緩和

4.2 日本の主要プレイヤーと事例

4.2.1 大手金融機関の取り組み

金融機関主要取り組みパートナー企業
GMOあおぞらネット銀行BaaS API提供、500以上の事例各種EC事業者、フィンテック企業
みんなの銀行デジタルバンキング、API連携地域企業、スタートアップ
住信SBIネット銀行決済API、レンディングサービスEC事業者、不動産会社

4.2.2 非金融企業の参入事例

メルカリ: メルペイを通じて決済、融資(メルペイスマートマネー)、保険(メルカリあんしん保険)を提供

楽天: 楽天エコシステム内で決済、銀行、証券、保険、カードサービスを統合提供

PayPay: 決済から始まり、銀行(PayPay銀行)、証券(PayPay証券)、保険まで展開

4.3 日本市場の特徴と課題

4.3.1 市場の特徴

  • キャッシュレス決済の急速な普及(2022年時点で36.0%、111兆円)
  • モバイル決済の利用率向上(若年層を中心に72%の利用意向)
  • 優良顧客層での高い利用意向(コンビニ利用者の71%がキャッシュレス決済を支持)

4.3.2 普及の課題

  • ユースケース構築力の不足: 顧客価値向上に焦点を当てたサービス設計の必要性
  • テクノロジー人材の不足: API活用やシステム統合に必要な技術力
  • 規制対応の複雑性: KYC、AMLなど金融業界特有のコンプライアンス要件
  • 商習慣の違い: 海外モデルをそのまま適用することの難しさ

5. 規制環境と法的考慮事項


5.1 グローバルな規制動向

5.1.1 アメリカ

連邦預金保険公社(FDIC)が2024年に提案した規則により、銀行とフィンテック企業間の透明性向上が求められています。特に以下の点が重視されています:

  • リスク管理とガバナンス体制の強化
  • 顧客データの保護とプライバシー
  • マネーロンダリング防止(AML)体制
  • 消費者保護の徹底

5.1.2 ヨーロッパ

PSD2(改正決済サービス指令)により、オープンバンキングが義務化され、エンベデッドファイナンスの基盤が整備されています。主な要件は以下の通りです:

  • 強力な顧客認証(SCA)の実装
  • APIアクセスの標準化
  • GDPR準拠のデータ保護
  • 決済機関のライセンス取得

5.1.3 アジア太平洋

各国で異なる規制アプローチが取られており、シンガポール、香港、オーストラリアではフィンテック促進のためのサンドボックス制度が導入されています。

5.2 日本の規制フレームワーク

5.2.1 金融サービス仲介業(新仲介業)

2021年11月に施行された金融サービス仲介業法により、以下が可能になりました:

  • 単一ライセンスでの複数金融分野の仲介
  • 特定金融機関への所属義務の撤廃
  • 複数金融機関との提携による商品比較・提案

5.2.2 規制上の制約と要件

  • 高リスク商品・高額商品の取扱い制限
  • 適合性原則の遵守
  • 説明義務の履行
  • 紛争解決体制の整備

5.3 コンプライアンス上の重要課題

5.3.1 データ保護とプライバシー

エンベデッドファイナンスでは、顧客の個人情報と金融データを扱うため、以下の対策が必要です:

  • データ暗号化と安全な保存
  • アクセス制御の実装
  • プライバシーポリシーの透明性
  • データ漏洩時の対応体制

5.3.2 サイバーセキュリティ

金融サービスの統合に伴うセキュリティリスクの増大に対し、以下の対策が求められます:

  • 多要素認証の実装
  • 不正検知システムの導入
  • 定期的なセキュリティ監査
  • インシデント対応計画の策定

6. 技術基盤とイネーブラーの役割


6.1 API エコシステム

エンベデッドファイナンスの実現には、堅牢で柔軟なAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)が不可欠です。主要な技術要素は以下の通りです:

6.1.1 RESTful API

  • 標準化されたHTTPメソッドの使用
  • JSONフォーマットによるデータ交換
  • ステートレスな通信
  • リアルタイム処理への対応

6.1.2 GraphQL

  • 必要なデータのみを取得可能
  • 単一エンドポイントでの複雑なクエリ
  • 型安全性の確保
  • リアルタイム購読機能

6.2 主要な技術プロバイダー

6.2.1 決済処理プラットフォーム

プロバイダー特徴主要サービス
Stripe開発者向けAPI、グローバル対応決済処理、サブスクリプション管理
Square中小企業向け、POS統合決済、融資、在庫管理
Adyenエンタープライズ向け、統合プラットフォーム決済処理、リスク管理

6.2.2 BaaS(Banking as a Service)プロバイダー

プロバイダー地域主要サービス
Solaris Bankヨーロッパデジタルバンキング、カード発行
Cross River Bank北米融資、決済処理
GMOあおぞらネット銀行日本API banking、法人向けサービス

7. ビジネスモデルと収益構造


7.1 B2Bビジネスモデル

B2Bエンベデッドファイナンスは企業間取引の効率化と資金調達の円滑化を目的としています:

7.1.1 主要サービス

  • 企業間決済: サプライチェーン内での迅速な支払い処理
  • 貿易金融: 輸出入取引における信用状・保証状の電子化
  • ファクタリング: 売掛債権の早期現金化
  • 設備投資融資: 機械・設備購入時の分割払い

7.1.2 収益モデル

  • 取引手数料(0.5-3.5%)
  • 月額利用料(SaaS型)
  • 融資利息・保証料
  • データ分析・コンサルティング収入

7.2 B2Cビジネスモデル

B2Cモデルでは消費者の利便性向上と購買体験の最適化を重視しています:

7.2.1 主要サービス

  • BNPL(後払い決済): 分割払いオプションの提供
  • デジタルウォレット: 統合的な資金管理
  • マイクロ投資: 少額からの投資サービス
  • 保険サービス: 購入時の自動保険付帯

7.2.2 収益モデル

  • 加盟店手数料(2-6%)
  • 延滞利息・手数料
  • 保険料収入
  • 投資信託・証券取引手数料

7.3 市場別収益予測(2025年)

  • エンベデッド決済: 650億ドル
  • エンベデッド融資: 300億ドル
  • エンベデッド保険: 700億ドル
  • エンベデッド投資: 150億ドル

8. 顧客体験とユーザビリティ


8.1 シームレスな統合の重要性

成功するエンベデッドファイナンスサービスの共通点は、金融機能が主サービスに自然に統合されていることです:

  • ワンクリック決済: 最小限のステップで支払いを完了
  • 自動認証: 生体認証やデバイス認証の活用
  • コンテキスト型サービス: 利用状況に応じた最適なオプション提示
  • 透明な手数料: 隠れたコストのない明確な料金体系

8.2 カスタマーエクスペリエンスの最適化

8.2.1 個人化された金融サービス

顧客の行動データや取引履歴を活用し、個々のニーズに応じたサービスを提供:

  • 購買パターンに基づく融資オファー
  • リスクプロファイルに応じた保険商品
  • 投資目標に合わせたポートフォリオ提案
  • 支出傾向に基づく節約アドバイス

8.2.2 マルチチャネル対応

顧客が使用する様々なデバイスやプラットフォームで一貫した体験を提供:

  • スマートフォンアプリ
  • Webブラウザ
  • IoTデバイス(スマートウォッチ等)
  • 音声アシスタント

9. 業界別応用事例


9.1 小売・Eコマース

9.1.1 オンライン決済の進化

Eコマース分野では、カート放棄率の削減と購買体験の向上が主要な課題です:

事例:Shopify

Shopify PaymentsとShopify Capitalを通じて、加盟店に包括的な金融ソリューションを提供。売上データに基づく迅速な融資承認により、中小企業の成長を支援。

結果: 加盟店の平均売上向上率25%、融資承認率85%

9.1.2 実店舗への応用

  • POS端末統合型の分割払い
  • QRコード決済と連携した即座の保険付帯
  • 店頭での信用審査と即日融資
  • ロイヤルティプログラムと投資サービスの連携

9.2 ヘルスケア

9.2.1 医療費支払いの革新

高額な医療費に対する支払い負担軽減と、医療機関のキャッシュフロー改善を実現:

事例:CareCredit(アメリカ)

歯科、美容医療、獣医療分野で特化した医療ローンサービスを提供。患者は即座に治療を受けられ、医療機関は確実に代金を回収可能。

利用実績: 12万以上の医療機関、1,200万人の患者が利用

9.2.2 健康保険との連携

  • 診療時の保険適用可否の即座確認
  • 自費診療部分の分割払いオプション
  • 予防医学・健康管理アプリとの保険料連動
  • 薬局での医薬品購入時の保険適用処理

9.3 交通・モビリティ

9.3.1 ライドシェア・タクシー業界

移動サービスに金融機能を統合することで、利用者と提供者双方の利便性を向上:

事例:Uber

ドライバー向けの即座支払い(Instant Pay)、利用者向けのUber Credit、法人向けのUber for Businessなど、包括的な金融エコシステムを構築。

効果: ドライバーの収入安定性向上、利用者の支払い利便性向上

9.3.2 自動車業界

  • カーローンのデジタル化と迅速審査
  • 自動車保険の使用実績連動型料金
  • EV充電時の統合決済システム
  • カーシェアリングサービスでの分単位課金

9.4 旅行・宿泊業界

9.4.1 旅行予約プラットフォームの革新

事例:Booking.com

宿泊予約時の分割払い、旅行保険の自動付帯、現地通貨での決済最適化など、旅行体験全体をサポートする金融サービスを提供。

導入効果: 予約完了率15%向上、顧客満足度スコア4.2→4.6に改善

9.4.2 統合的な旅行金融サービス

  • 旅行費用の分割払いオプション
  • 為替レート最適化による海外決済
  • 旅行保険の動的プライシング
  • ロイヤルティポイントの投資運用

10. リスク管理と課題


10.1 技術的リスク

10.1.1 システム統合の複雑性

複数のAPIを統合する際に発生する技術的課題:

  • 相互運用性: 異なるシステム間でのデータ整合性確保
  • レスポンス時間: リアルタイム処理要求への対応
  • スケーラビリティ: トラフィック増加に対応する拡張性
  • システム障害: 単一障害点の排除とフェイルオーバー対策

10.1.2 セキュリティリスク

  • データ漏洩・不正アクセス
  • 中間者攻撃
  • APIの脆弱性悪用
  • 認証システムの突破

10.2 規制・コンプライアンスリスク

10.2.1 法規制の変化への対応

金融規制の頻繁な変更に対応するため、以下の体制整備が必要:

  • 規制動向の継続的監視
  • コンプライアンス体制の定期的見直し
  • 国際的な規制調和への対応
  • 業界団体との連携強化

10.2.2 責任分界点の明確化

エンベデッドファイナンスでは複数の事業者が関与するため、責任範囲の明確化が重要:

  • データ保護責任の分担
  • 不正取引時の損失負担
  • 顧客対応・苦情処理の責任者
  • 監査・検査対応の役割分担

10.3 事業リスク

10.3.1 市場リスク

  • 競合激化: 新規参入による収益性悪化
  • 顧客獲得コスト上昇: マーケティング効率の低下
  • 技術革新: 既存ソリューションの陳腐化リスク
  • 経済環境変化: 景気悪化による需要減少

10.3.2 運用リスク

  • 人材不足による品質低下
  • パートナー企業の信用リスク
  • 顧客サポート体制の不備
  • 事業継続計画(BCP)の不足

11. 将来展望と新技術動向


11.1 2025-2030年の市場予測

11.1.1 市場規模の長期予測

  • 2025年: 1,461億ドル(CAGR 36.4%で成長)
  • 2030年: 6,904億ドル~7.2兆ドル
  • 2034年: 1兆7,325億ドル(一部予測)

11.1.2 地域別成長予測

地域2025年CAGR主要成長要因
アジア太平洋42.5%デジタル化促進、スマートフォン普及
ラテンアメリカ38.2%金融包摂の進展
中東・アフリカ35.8%モバイルマネーの拡大
北米28.4%B2B市場の拡大
ヨーロッパ25.9%規制環境の整備

11.2 新技術トレンド

11.2.1 人工知能(AI)・機械学習(ML)

AIとMLの活用により、エンベデッドファイナンスはより高度で個人化されたサービスを提供可能になります:

  • リスク評価の高度化: リアルタイムでの信用スコアリング
  • 不正検知: 異常取引パターンの即座検出
  • 個人化されたオファー: 顧客行動に基づく最適な金融商品提案
  • 自動化されたカスタマーサービス: チャットボットによる24時間対応

11.2.2 ブロックチェーンと分散型金融(DeFi)

ブロックチェーン技術の成熟により、以下の革新が期待されます:

  • スマートコントラクト: 自動化された金融取引
  • クロスボーダー決済: 低コストでの国際送金
  • 分散型身元確認: プライバシー保護型のKYC
  • プログラム可能なお金: 条件付き自動実行

11.2.3 オープンバンキング2.0

次世代オープンバンキングでは、より幅広い金融データの共有が可能になります:

  • 投資・保険データの標準化
  • リアルタイムバランス照会
  • 予測的資金管理
  • クロスプラットフォームでの統一体験

11.3 新たなビジネス機会

11.3.1 B2B2X(Business-to-Business-to-X)モデル

企業が他企業のプラットフォームを通じて最終顧客にサービスを提供するモデルが拡大:

  • マーケットプレイスでの即座融資
  • SaaSプラットフォーム内での決済・請求機能
  • IoTデバイスを通じた使用量課金
  • ソーシャルメディア内でのマイクロペイメント

11.3.2 業界特化型ソリューション

各業界の特殊ニーズに対応したカスタマイズされたソリューション:

  • 農業: 作物の成長段階に応じた段階的融資
  • 建設業: プロジェクト進捗連動型の資金調達
  • エンターテインメント: イベント収益予測型の前払い
  • 教育: 学習成果連動型の教育ローン

11.3.3 サステナブルファイナンスとの統合

ESG(環境・社会・ガバナンス)要素を組み込んだ金融サービス:

  • カーボンフットプリント連動型の保険料設定
  • 持続可能な商品購入時のインセンティブ
  • ESG投資への自動振り分け
  • 再生可能エネルギー利用促進のための優遇融資

12. 日本市場の展望と提言


12.1 日本市場の将来性

12.1.1 市場成長の推進要因

  • デジタル庁設置: 行政DXの推進によるデジタル決済普及
  • キャッシュレス政策: 2025年までに40%達成目標
  • フィンテック育成: 金融庁による規制緩和とサンドボックス制度
  • 人口動態: デジタルネイティブ世代の経済活動拡大

12.1.2 市場規模予測(日本)

  • 2024年: 約3.2兆円
  • 2030年: 約12.5兆円(CAGR 25.3%)
  • キャッシュレス決済: 2030年までに80兆円規模
  • BNPL市場: 2025年までに2.1兆円

12.2 成功要因の分析

12.2.1 顧客中心のアプローチ

日本市場で成功するためには、以下の点が重要です:

  • ユーザビリティの追求: 直感的で分かりやすいUI/UX
  • セキュリティへの安心感: 不正利用対策の可視化
  • カスタマーサポート: 日本語での手厚いサポート体制
  • 段階的導入: 従来サービスからの自然な移行

12.2.2 パートナーシップ戦略

  • 金融機関との連携: 信頼性とコンプライアンス体制の活用
  • 大手プラットフォームとの協業: 楽天、Yahoo!、Amazonなど
  • 業界団体との協力: 標準化推進と規制対応
  • システムインテグレーターとの提携: 企業向けソリューション開発

12.3 政策提言

12.3.1 規制環境の整備

  • API標準化の推進: 業界横断的な技術仕様の統一
  • データポータビリティ: 顧客データの安全な移行支援
  • サンドボックス制度の拡充: 実証実験環境の充実
  • 国際的規制調和: グローバルスタンダードとの整合性確保

12.3.2 イノベーション促進策

  • 税制優遇: フィンテック投資への税制支援
  • 人材育成: 金融×テクノロジー人材の育成プログラム
  • 産学連携: 大学と企業の共同研究促進
  • 国際連携: 海外フィンテック企業との協力促進

13. 結論


13.1 エンベデッドファイナンスの社会的意義

エンベデッドファイナンスは単なる技術革新を超えて、金融サービスの民主化と包摂性の向上をもたらす重要な社会インフラです。従来の金融機関による分断されたサービス提供から、顧客の日常生活に自然に溶け込んだ統合型サービスへのパラダイムシフトを代表しています。

この変革により、以下の社会的価値が実現されます:

  • 金融包摂の促進: 従来のバンキングサービスにアクセスが困難だった層への金融サービス提供
  • 中小企業の成長支援: 迅速かつ柔軟な資金調達機会の提供
  • 消費者保護の強化: 透明性の高い料金体系と分かりやすいサービス
  • 経済効率性の向上: 取引コストの削減と資金循環の促進

13.2 今後の展望

エンベデッドファイナンス市場は今後5年間で劇的な成長を遂げることが予測されます。特に以下の分野での発展が期待されます:

13.2.1 技術革新による高度化

  • AI/MLによるリスク管理の精緻化
  • ブロックチェーン技術による取引の透明性向上
  • 量子コンピューティングによるセキュリティ強化
  • IoT統合による新たなサービス創出

13.2.2 市場拡大と多様化

  • B2B市場での本格的普及(16兆ドル市場予測)
  • 新興国での金融包摂促進
  • サステナブルファイナンスとの統合
  • メタバース・Web3.0への拡張

13.3 ステークホルダーへの提言

13.3.1 金融機関への提言

  • オープンイノベーションの推進: フィンテック企業との戦略的パートナーシップ
  • API基盤の強化: 外部連携に対応した技術インフラの整備
  • 規制対応体制の構築: 新たな規制要件への迅速な対応
  • 人材育成: デジタル金融に精通した人材の確保・育成

13.3.2 非金融事業者への提言

  • 顧客価値の追求: 収益性よりも顧客体験向上を優先
  • コンプライアンス体制: 金融規制への適切な対応体制構築
  • セキュリティ投資: サイバーセキュリティ対策の強化
  • 専門性の獲得: 金融業務知見の内製化またはパートナー連携

13.3.3 規制当局への提言

  • イノベーションバランス: 革新促進と消費者保護の両立
  • 国際協調: グローバルスタンダードとの整合性確保
  • 継続的対話: 業界との定期的な意見交換
  • 柔軟な規制対応: 技術進歩に応じた規制の適時見直し

13.4 最終的見解

エンベデッドファイナンスは、デジタル経済時代における金融サービスの新たな標準形態となりつつあります。その成功は、技術的な優秀性だけでなく、顧客中心の思考、適切なリスク管理、そして持続可能な成長への取り組みにかかっています。

日本市場においても、法制度の整備と市場参加者の積極的な取り組みにより、大きな成長機会が開かれています。今後5年間は、この分野における競争優位性を確立する重要な期間となるでしょう。

最終的に、エンベデッドファイナンスが目指すのは、金融サービスが「意識されない」ほど自然で便利な世界の実現です。この理想的な状態に到達するためには、技術革新、規制環境の整備、そして何より顧客のニーズに応える姿勢が不可欠です。

監修者:
鎌田光一郎:⻘山学院大学法学部卒業。SMBC日興証券株式会社にて証券営業、経営管理業務に従事したのちPwCコンサルティング合同会社に転籍。金融機関に対するコンサルティング業務に従事。その後、Librus株式会社を設立、代表取締役に就任。

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