前回に引き続き、世界の教育現場と日本の教育現場の違いや状況の比較から日本の平均的な教育が世界標準からどのようなポイントで取り残されつつあるのか、またそれが子どもたちに与える影響についてさらに深掘りをしてみたいと思います。
その教育は誰のため?
教育は個人の成長だけでなく、社会全体の発展に不可欠なものです。学習者を知的な存在たらしめ、最も本人に有益とされる初等教育でさえその普及は国のGDPを押し上げ、育児担当が女性である社会では、ほぼ即時に乳幼児の死亡率低下や子どもの健康促進が観測され、その後中等教育にもアクセスすれば、その子どもたちのIQも明らかに向上し、その後の中産階級を生み出す原動力になった事例もあります。さらに皆様ご存知の通り、芸術やスポーツに触れることは人生はより豊かに人として充実したものにしてくれます。
さらに高等教育にいたっては、実は学習者本人が享受するメリットよりも、社会が得られるメリットが多いとされています。特にヨーロッパでこの考えは根強く、結果として高等教育は社会全体の利益に繋がるとして大学の無償化や低額な学費を社会資本として提供するコンセンサスがあります。実際、実学だけでなく古来高等教育のコアとされる哲学や倫理を学ぶことは、社会の仕組みや機能へより深い理解となりバランスの取れた市民意識を育みます。さらに古来から特に知識層や特権階級(エリート)は、その素養としてより倫理や哲学に重心をおいた学びを与えられることにより、より高い視座で社会的責務を果たしてきた歴史があります。(古今東西の帝王学も紐とけば、そのコアは哲学や倫理(宗教学)な要素が強い事もしられている)
日本の現状と歪み
近年日本では貧富の差が急拡大し「親ガチャ」などと揶揄されるほど家庭が子どもに対して与える環境に大きな差がうまれはじめています。また残念なことに近年の教育学や発達心理学そして脳科学からの追跡や実証検証からいずれも幼少期の「体験格差」が能力差や学力差に繋がっていることが確認されました。またその影響は調べるほど多方面の特性や人格にも関わるという報告が続いています。さらに国内の都市部と地方、また家庭環境による文化的資源の差も、たとえ偏差値が並んだとしても、人生の充実度やQOLに大きな違いがあることも知られ始めました。
内外の違いから見えてくる課題
前回も指摘したように日本の教育は、その弊害が指摘され始めて長いにも関わらず、いまだ偏差値偏重の選抜システムと均質化を優先する傾向にあります。このような単一指標に依存する評価方法では個性が育ちにくく、結果革新的なイノベーションが生まれにくい社会なのは皆様ご存知の通りです。さらに単一の指標で子ども達の価値が決定され、個々の多様な才能の芽や自己肯定感を奪う結果にもなってしまっていることもすでに多くの方がお気づきの通りです。
さらに他の主要国と比較し、明らかに無意識のうちに女子学生には幼少期から不利な教育環境があたえられたり、その能力ではない理由で進路選択を阻む傾向も世界の主要国の知識層ではもはやみられない色濃さで明らかに残っています。
もうひとつ、そして最も考えるべきことは、国際評価で経年また突出して男女問わず子どもたちの自己肯定感が低い事です。個性や多様性が否定されるなら「自分らしさ」に自信を持てず、自己肯定感を育むことは難しいのは当然です。さらに、それが指摘されたにも関わらず、長所を伸ばしたり、勇気づけるコーチングの手法やスキルは未だに日本の教育の現場、保護者にも行きわたったとは言えません。さらに悪い事はその大人達がそもそも自己肯定感の低いため、彼らとの関わりで子ども達は自己肯定感を削られていると発達心理学の検証は示しています。
おわりに
何かを学ぶ時、最初から上手くいくことばかりではありません。失敗は進歩の証であり、むしろ褒められるべきです。自己肯定感の高い子どもは、困難に立ち向かう力(レジリエンス)や、目標に向かって粘り強く努力する力(グリット)を発揮することができます。
そして欠点や間違いや失敗を批判される環境では「指示されたことをこなす自主性」は身についても、前例も正解もない状況で何かを生み出す「主体性」を支える勇気や自己肯定感は生まれにくいものです。
そしてそんな子どもの自己肯定感のコアになるものは、記憶にものこらないほどの幼少期に保護者や周囲が示してくれる「無条件の愛(受容)」であると、近年の発達心理学の研究者らは指摘しています。
教育が個人や社会に与える影響は計り知れません。教育の重要性を再認識し、社会の未来そのものである子どもたちにその出自を問わず、社会として最大限の才能開花や心身の健康のための環境を整備し、また最新の知見を取り入れ、自らも学びながら社会全体で見守り育てていくことを再確認するタイミングかもしれません。
「出産は女性一人でもできるが、その子が立派な大人になるには村がひとついる」
(ネイティブ・アメリカンの諺)
【参考】
私たちは子どもに何ができるのか ― 非認知能力を育み、格差に挑む–ポール・タフ 2017
世界トップレベルの女子の理数能力を無駄にする、日本社会のジェンダー偏見
2024年9月25日(水)舞田敏彦(教育社会学者)
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2024/09/post-105814.php
【データで語る日本の教育と子ども】 第3回 自己肯定感が低い日本の子どもたち-いかに克服するか 木村 治生(CRN主席研究員)2019年3月 8日
https://www.blog.crn.or.jp/lab/11/03.html
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まつだ(ハミルトン)よりこ
株)サスティナブルライフデザインスクール
CSO(チーフ・サスティナビリティ・オフィサー)
“多様性をチカラ”にするインクルーシブ教育アドバイザー
幼少期の”まるで魔法”な時期を最大活用し「バイリンガルも当たり前」にする”エデュ・ロードマップ(学びの地図)”を提唱。
国際結婚によりバイリンガル(多言語&多文化)育児の必要性に直面。在米経験を経て帰国後より教育コーチングを開始。自治体、企業、各種団体へは各種ESG (SDGs、DE&I) の啓発プロジェクトの企画から運営(PMまで)を提供。自身も登壇多数。
社会科教員I種免許(中高)。留学アドバイザー(内閣府認定NPO留学協会)。IFA