近年、グローバル化が進む中で、世界の教育現場と日本の教育現場の違いが顕著になり、また年々その差がひらいているように感じます。今回は内外の学校の状況の比較から日本の平均的な教育が世界標準からどのようなポイントで取り残されつつあるのか、またそれが子どもたちに与える影響について考えてみたいと思います。
見えてきた日本の教育の課題
日々、内外の教育現場を見聞きしていると海外では重要とされるいくつかの要素が欠けていることが分かります。まず気になるのは最新の教育研究や脳科学の知見が現場に反映されにくい構造があることです。
例えば、世界主要国では「PBL(課題解決型学習)」や「SEL(社会性と感情の学習)」が標準的な教育手法としてほぼ定着していますが、日本ではまだ十分に普及していません。これらは単なる教育のトレンドではなく、脳科学的な研究に基づいた効果的な学習方法として確立されているにも関わらず。です。
また「いきる力」の源ともなる自己肯定感を支えるセルフコーチングやマインドフルネスといったメンタルヘルスを整えるスキルの啓発は、海外では子どもや育児の中に広く浸透していますが、日本の多くの教育や育児の現場では未だに注目されていません。なおセルフコーチングはストレス社会を生きるために教育者や保護者にも重要なスキルであり、より充実し、幸せな人生を送りたいなら、日本人のリスキリングの筆頭にあげられるべきスキルかもしれません。
デジタルデバイドの深刻化
ICT教育の遅れも深刻です。内外の差も激しいですが、さらに国内でも公立学校と私立学校の間で既にデジタル格差が生じています。この差は情報化社会、またAI時代により、日々の学習機会の格差、さらには適切な情報へのアクセスの有無は、個人の才能開花の格差につながることすらほぼ確実とも考えられます。
日本特有の教育観が及ぼす影響
日本では、文系・理系という分け方が一般的です。しかし、この考え方は世界の学術分類には存在しないもので、学問を狭い枠に閉じ込める原因となっています。進学時に偏差値偏重なことも結局は特定の能力しか判定できないことになります。このような単純化された評価基準は、子どもたちが個々の特性や興味に応じた進路を選ぶ妨げとなり、自己肯定感を喪失する大きな要因にもなっています。さらに、低年齢からの塾通いは、子どものQOLをより厳しいものにしている要因の一つです。長時間の学習が当たり前となり、子どもたちの睡眠時間が削られています。低年齢から若年層の脳の発達には質の高い睡眠が欠かせませんが、日本の教育文化は「子どもの生涯の達成や健康」という本質的なポイントすら見失っているようです。
その他、内外の違いを感じる重要な教育的要素
また海外の教育関連情報や社会を知るほど、日本の教育者や保護者には「男女脳」という20世紀の都市伝説が未だに蔓延っている事に気がつきます。近年の脳科学は、男女間における明確な違いを示していないことが繰り返し証明されています。このことを理解し、正確的な特性(優しい、丁寧、やんちゃなどのキャラ)ふくめ「個性差>性差」であるという現代の知見を教育現場や家庭(社会)でも確認することも重要です。さもなくば今後も人口の半分の才能開花を意図的に阻害し無駄にしている(飛行機なら片肺飛行)。少子化の中「全員参加で社会還元」も社会の適材適所も阻害している現実に気がつく必要があります。
また、ルッキズム(見た目の美しさに基づく評価)についても、諸外国の子どもよりも認識が乏しく、結果的にグローバル社会、またそれぞれの生きづらさの原因となっています。見た目や体型、人種などの違いを理解し受け入れることは、子どもたちそれぞれの存在を尊重します。そして自分を世界で唯一の存在と自己肯定感にもつながる学びです。
次に、感情表現やコミュニケーションに関するEQ(感情知能)へのフォローも日本の教育ではあまり導入されていません。もう何十年も前からこのEQのスキルの方がIQ以上に生涯年収に強く相関(=IQよりEQが高い方が生涯年収も高い)というデータがあるにも関わらず。です。
さらに適切な「医学的・生物学的な性教育」は圧倒的に欠落しています。これらの科学的なリプロダクションの知識、性同意、自己保全の知識はいわゆるアダルトコンテンツでは学べません。男女がそれぞれの身体的機能について科学的な知見を得る機会を持つことは、将来より適切なパートナーシップや家庭運営へ良い影響をもたらすことが既に社会心理学そして犯罪者らへの調査からも判明しています。
おわりに
以上のように、日本の教育には、海外との違いによる「ズレ」が存在します。教育は子どもたちの未来を左右する重要な要素です。世界標準から取り残されることは日本の子どもたちの可能性を狭めることに直結してしまいます。
私たち大人には、子どもたちにより良い教育環境を提供する責任があります。日本の教育には、海外の成功事例や科学的知見が反映され難い現状がありますが、情報社会では意識さえすれば個人でも世界の最新情報にアクセスできるのです。このメリットを生かし、これらの「ズレ」を認識して家庭の中からも改善していくこと。自力では探しきれないなら信頼できる情報源(まちがっても従来の既得権益なポジショントークでない)から世界の最新の知見を得て、子どもたちの健やかな成長やより大きな才能開花につなげて頂きたいと存じます。
【参考】
「日本の生徒のネット活用度は先進国で最低レベル」ニューズウィーク日本版
舞田敏彦(教育社会学者)2023年3月15日
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2023/03/post-101104_3.php
「ステレオタイプに陥らないために──『男性脳・女性脳』の言説」
東京大学 四本 裕子 教授 (大学院総合文化研究科 ) 2024年4月10日
ご自身とお子様のため資産運用を学び、FIREを目指したい方&バイリンガル育児や先進教育に関心のある方はこちら:https://slds.co.jp/
まつだ(ハミルトン)よりこ
株)サスティナブルライフデザインスクール
CSO(チーフ・サスティナビリティ・オフィサー)
“多様性をチカラ”にするインクルーシブ教育アドバイザー
幼少期の”まるで魔法”な時期を最大活用し「バイリンガルも当たり前」にする”エデュ・ロードマップ(学びの地図)”を提唱。
国際結婚によりバイリンガル(多言語&多文化)育児の必要性に直面。在米経験を経て帰国後より教育コーチングを開始。自治体、企業、各種団体へは各種ESG (SDGs、DE&I) の啓発プロジェクトの企画から運営(PMまで)を提供。自身も登壇多数。
社会科教員I種免許(中高)。留学アドバイザー(内閣府認定NPO留学協会)。IFA