巷には投資があり、またギャンブルがあります。 興味深いことに同じものを見て投資だという人もいれば ギャンブルだという人もいます。一体この2つを分けるものは何なのでしょうか?
先日、今年も学術の各分野におけるノーベル賞が発表されました。特に経済学の受賞では改めて「経済とは経世済民(市井の個人の営みこそ経済の実体)」また「社会のシステムが健全であると(個人が安心できる環境だと)その社会の経済も豊かに発展」という”経済”の本質を穿つ研究が受賞しました。これは社会心理学や脳科学でも示唆され、近年はEX(従業員体験)などでビジネスの現場では活用されてきた知見を、マクロ経済学でも改めて確認したという図式にもみえます。
さらにその検証モデルには明らかに日本も含まれていると感じた方も多いのではないでしょうか?(受賞者の一人はインタビューで「この25年間 経済が低迷しつづけてもアクションを起こさない驚くべき民族がいる」というコメントも一部で報道されました)
ところで(日本ではその認識がまだ浸透していないようにも感じますが)経済学は世界では科学※の一分野です。また時に過去の定説すら覆しながら進歩するものです。
※科学の定義は、一般には「問題に対する仮説が観察・実験等により検討できること【実証性】, 同一条件のもとでは同一の結果が得られること【再現性】,導出した結論が事実に基づき客観的に認められること【客観性】」をもつもの。と定義されます。
そしてこのノーベル経済学賞の受賞者の一人、米国の J .ヘックマン教授は古来より「人の最大の道楽(ギャンブル)」の異名をとる「教育(子育て)」 の考察を行った事で有名です。
経済学者が教育?と思われるかも知れません。が、世界には様々な学際の研究分野があります。この研究も 「教育経済学」と言われる分野であり、米国をはじめ世界で活発な研究や検証が行われ、人材開発や教育の現場で生かされています。そしてヘックマン教授らの行った30年にも及ぶ検証は、世界の教育の構図すら大きく変えました。
研究チームが実際の追跡調査で導き出したもの。それは「幼児期(プライマリー期。大体9歳ごろまで)の教育はその後(特に中学相当以降)の教育よりも桁違いのインパクトをその子の人生に与える」というそれまでの教育の常識を覆すものでした(注1)
そしてその効果を投資効率ROI(Return On Investment)に換算し比較したところ平均で10倍以上。とりわけ 6才ごろまでの時期は13倍以上と導きだしました(現在はこれよりも大きなインパクトを示唆する研究もあるそうです)。
ところで、もしROIが再現性高く予測できるなら、それはギャンブルでしょうか?投資でしょうか?
株式投資をされている方は「テンバガー」という語を耳にされるかと思います。これは価格が10倍以上になる「大化け銘柄」のことですが、見つけるのはとても困難です。でもこの実証検証によれば「幼い子達はほぼ全員、まるで「テンバガー」の魔法がかかったような状態」だというのです。
さらに検証はどのような環境や刺激が、その違いを生むのかについても様々な示唆を残しました。そして従来行われてきた「先取り」や「知識偏重の座学」より、五感をフルに生かした体験や子どもの主体性を尊重するアプローチ、特に「非認知能力(Non Cognitive Skills)」が重要である。つまり学力やIQなどの数値で測れる能力(認知能力)に対し、意欲やコミュニケーション力といった数値では測れない能力こそが人生の成功の鍵だと結論づけたのです。
そしてこの時期の特殊性は、現在も脳科学や発達心理学により裏付けられ続けています。
このような知見から、世界の教育はこの30年ほどで大きく様変わりしました 。
端的には、世界の先進教育はプライマリー(幼少期)を最重要とし、また指導アプローチもコーチングのスタイルへ基本的にシフトしているように見えます。
昨今、インターナショナルスクールが採用する各プログラム、また探求型と呼ばれるアプローチもこのような知見をベースにしています。もちろん人の個性差や多様性は大きく、研究の余地も膨大であり、最高の環境とは個別最適化(ニューロダイバーシティ)な事に変わりはありません。
しかしどの人種でも最も爆発的な発達はプライマリー(幼少)期である事に疑いの余地はほぼないと多くの研究が示唆しています。
少なくとも人の基本的な能力や、才能の下地作り、またその開花を左右する幼少期は、古代からの「教育(子育て)は人の最大のギャンブル」な状態から脱皮を始めたと言えるかもしれません。
経済も科学であるなら、高い再現性で資産形成や運用ができるのではないでしょうか。金融や経済に興味があるけど、何から始めたらいいのかわからない方はぜひお気軽にお問い合わせください。
注:
1、ペリー就学前プログラムおよび アベセダリアンプロジェクト
参考:「
ご自身とお子様のため資産運用を学び、FIREを目指したい方 &バイリンガル育児や先進教育に関心のある方もこちらへ:サスティナブルライフデザインスクール
まつだ(ハミルトン)よりこ
(株)サスティナブルライフデザインスクール CSO(チーフ・サスティナビリティ・オフィサー)“多様性をチカラ”にするインクルーシブ教育アドバイザー
幼少期の”まるで魔法”な時期を最大活用し「バイリンガルも当たり前」にする”エデュ・ロードマップ(学びの地図)”を提唱。
国際結婚によりバイリンガル(多言語&多文化)育児の必要性に直面。在米経験を経て帰国後より教育コーチングを開始。自治体、企業、各種団体へは各種ESG (SDGs、DE&I) の啓発プロジェクトの企画から運営(PMまで)を提供。自身も登壇多数。
IFA。社会科教員I種免許(中高)。留学アドバイザー(内閣府認定NPO留学協会)