
半導体前工程装置のKOKUSAI ELECTRIC(証券コード:6525/東証プライム)は、2026年3月期に減収減益となった一方、2027年3月期は売上収益で前期比19.1%増、営業利益で同30.3%増という増収増益計画を掲げている。業界団体の需要予測も大幅に上方修正され、事業環境は明確に改善方向にある。本稿では公表済みの決算短信・適時開示・業界統計をもとに、同社のファンダメンタルズを整理する。
1. 企業概要 ― 成膜・熱処理に特化したニッチトップ企業
日立系からKKR傘下を経て東証プライムへ
同社の源流は1949年設立の国際電気で、日立国際電気を経て2018年に半導体製造装置事業として分離独立した。2017年に米投資ファンドKKRの傘下に入り、いったんは米アプライドマテリアルズへの売却が計画されたものの、2021年に規制当局の承認が得られず解消。その後2023年10月25日に東証プライム市場へ上場した経緯を持つ。本社は東京都千代田区、代表取締役社長執行役員は塚田和徳氏。
主力はバッチ式の成膜・トリートメント装置
事業は半導体製造装置の単一セグメント。ウエハー上に薄膜を形成する「成膜」工程と、成膜後に熱やプラズマで膜質を改善する「トリートメント」工程の装置を主力とする。とりわけ複数枚のウエハーを一括処理するバッチ式ALD(原子層堆積)装置では世界トップクラスのシェアを持つとされ、メモリーの三次元化・高積層化が進むほど需要が伸びる構造にある。
生産拠点は研究開発機能を担う富山事業所(富山市)と、2024年10月に稼働した主力製造拠点の砺波事業所(富山県砺波市、投資額約240億円)、および韓国拠点。装置販売に加え、既存装置の性能を高める「アップグレード改造」を含む保守・サービス事業を持ち、2026年3月期にはサービス売上比率が40%まで高まっている。景気変動の影響を受けやすい装置販売に対し、サービスは相対的に安定した収益源となる点は同社の収益構造上の強みといえる。
2. 2026年3月期 ― 中国調整を吸収した「踊り場」の一年
売上収益2,351億円、営業利益418億円で減収減益
2026年3月期の連結売上収益は2,351億円(前期比1.6%減)、営業利益418億円(同18.5%減)、親会社の所有者に帰属する当期利益301億円(同16.4%減)と減収減益で着地した。同社が重視する調整後営業利益は476億円(同17.6%減)である。
減益要因は、前期に活発だった中国でのDRAM向け設備投資が一巡したことに加え、生産工場の稼働率低下、製品構成の変化、研究開発の先行投資であると説明されている。裏を返せば、外部要因と先行投資が主因であり、事業モデルそのものの毀損を示す内容ではない点が重要だ。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 | 2027年3月期(会社予想) |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 2,389億円 | 2,351億円 | 2,800億円 |
| 営業利益 | 513億円 | 418億円 | 545億円 |
| 調整後営業利益 | 578億円 | 476億円 | 605億円 |
| 当期利益 | 360億円 | 301億円 | 388億円 |
| 基本的EPS | 154.60円 | 129.00円 | 166.08円 |
| 年間配当 | 37円 | 37円 | 47円(予想) |
※2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(2026年5月13日)をもとに作成。億円未満は四捨五入。
地域別に見ると構図が入れ替わっている
決算短信の地域別売上収益を見ると、中国向けが1,119億円から906億円へ約19%減少した一方、韓国向けは380億円から576億円へ約52%増加している。日本向けも199億円から228億円へ増加した。全体の売上が横ばい圏にとどまったのは、中国の反動減をAIメモリー投資の中心地である韓国向けの伸びが相殺した結果であり、需要の主軸が中国の成熟投資からAI関連の先端投資へシフトしつつあることを示す数字といえる。
財務とキャッシュ・フローは着実に改善
営業活動によるキャッシュ・フローは488億円と前期から103億円増加し、期末の現金及び現金同等物は565億円(前期末比118億円増)となった。借入金の返済も進み、親会社所有者帰属持分比率は57.4%から61.0%へ上昇。改造案件に伴う前受金の受領などにより契約負債は124億円増加して348億円となっており、これは翌期以降の売上へ転換していく性質の負債である。減益期にあっても財務基盤とキャッシュ創出力が改善している点は評価しやすい。
3. 2027年3月期 ― 会社計画は営業利益30%増
通期計画と上期計画
2027年3月期の連結業績予想は、売上収益2,800億円(前期比19.1%増)、営業利益545億円(同30.3%増)、税引前利益534億円(同31.1%増)、親会社の所有者に帰属する当期利益388億円(同28.9%増)。調整後営業利益は605億円(同27.1%増)である。
注目したいのは上期の計画で、第2四半期累計として売上収益1,523億円(前年同期比29.9%増)、営業利益325億円(同43.1%増)を見込む。通期計画に対する上期の進捗想定は売上で約54%、営業利益で約60%にのぼり、期初から高い水準での立ち上がりを織り込んだ計画となっている。
増益ドライバーは「稼働率の改善」
会社側は増益の背景として、先端デバイス向け装置の売上構成比が高いことによる市場成長を上回る事業拡大に加え、「生産工場の大幅な稼働率改善」を挙げている。報道によれば、砺波事業所の稼働率を2026年3月期の50〜60%から2027年3月期には70〜80%へ引き上げる方針とされる。
装置メーカーの収益構造では、固定費比率の高い生産拠点の稼働率上昇は利益率へ直接効いてくる。2026年3月期の営業利益率17.8%に対し、2027年3月期計画は19.5%、調整後営業利益率では21.6%となる想定であり、増収と稼働率改善が同時に効くレバレッジ局面に入る計画といえる。
4. 事業環境 ― 業界予測は1兆円規模の上方修正
SEAJが2026年度予測を大幅引き上げ
日本半導体製造装置協会(SEAJ)は2026年7月2日、2026年度の日本製半導体製造装置販売高が前年度比26%増の6兆5,502億円になるとの予測を発表した。2026年1月時点の予測5兆5,004億円から1兆498億円の上方修正である。さらに2027年度は7兆4,017億円、2028年度は7兆7,718億円と、2025年度からの年平均成長率14.3%を見込む。
上方修正の理由は、AIサーバー向け先端ロジックの旺盛な投資に加え、HBM(広帯域メモリー)を中心とするDRAM投資の大幅な増加とされる。同予測が引用する世界半導体市場統計(WSTS)の6月時点の見通しでは、2026年の世界半導体販売高は前年比89.9%増、うちメモリーは同249.5%増と予想されている。
メモリー中心の投資局面は同社に相対的に有利
同社の主力であるバッチ式成膜装置は、NANDの高積層化やDRAMの微細化・三次元化で使用本数が増える工程を担う。市場の牽引役がロジック単独ではなくメモリーに広がっている局面は、製品ポートフォリオ上、同社にとって追い風となりやすい。2026年3月期に韓国向けが5割超伸びた事実は、この構図が実績として現れ始めていることを示している。
市場成長を見越した先行的な用地取得
2026年4月28日、同社は砺波事業所に隣接する約43,000平方メートルの土地を約10億円で取得すると発表した。引き渡しは2026年9月頃の予定で、取得後の敷地面積は約83,000平方メートルとほぼ倍増する。当初は現行拠点で2030年までの市場成長に対応する計画だったが、想定を上回る市場拡大を受けて用地確保を前倒しした形だ。用途の詳細は未定とされているが、需要期に供給制約で機会を逃さないための布石と位置づけられる。
5. 株主還元と需給環境
増配と自己株式取得
2026年3月期の年間配当は1株当たり37円(配当性向28.7%)で据え置かれたが、2027年3月期は10円増配の47円(中間23円・期末24円、配当性向28.3%見込み)を予想している。あわせて2026年5月13日の取締役会で、上限150万株・53億円の自己株式取得(取得期間2026年5月14日〜7月31日)を決議した。減益期においても還元姿勢を後退させていない点は、会社側の業績回復に対する見方を映すものといえる。
KKRの全株売却で需給の重石が解消
2026年5月19日、主要株主であったKKRが保有する全株式(発行済株式の約10.57%)の売却を実施したと発表された。発表直後の株価は需給悪化を警戒して下落したものの、その後は業績期待が優勢となり上値を追う展開となった。上場以来続いてきた段階的な売却が完了したことで、中長期的には売り圧力要因が解消し、流動性と浮動株比率が高まる方向に働く。
6. バリュエーション
2026年7月23日終値は9,108円。発行済株式数238,115,614株に基づく時価総額は約2兆1,700億円となる。会社予想EPS166.08円で計算した予想PERは約55倍、調整後EPS183.64円ベースでは約50倍。実績BPS938.59円に対するPBRは約9.7倍、予想配当利回りは約0.52%である。
絶対水準としては高い評価だが、同社株は2026年3月31日に年初来安値4,869円を付けた後、7月1日に上場来高値12,220円まで上昇し、足元はそこから約25%調整した位置にある。株価が高値圏で織り込んでいた期待値は一定程度剥落した格好で、今後は会社計画どおりの増益が実現するかがバリュエーションの妥当性を検証する軸となる。実績ROEは14.5%、親会社所有者帰属持分比率は61.0%と、財務健全性を保ちながら二桁の資本効率を確保している点も併せて確認しておきたい。
7. 留意すべきリスク要因
・シリコンサイクルの振幅:半導体設備投資は循環性が強く、装置メーカーの業績はその増幅を受けやすい。2026年3月期の減収減益はその一例である。
・地政学・輸出規制:中国向けが売上収益の約39%を占めており、輸出規制の強化や中国メーカーの国産化進展は販売数量に影響する可能性がある。
・顧客集中:メモリー大手を中心とする限られた顧客の投資計画に依存するため、特定顧客の投資延期が四半期業績に大きく振れる要因となる。
・会計上の見積り変更:2026年3月期には常備在庫品の評価方法変更により売上原価が18億37百万円減少し、営業利益が同額増加している。前期比較の際は留意が必要である。
・バリュエーション:予想PER50倍超の水準は業績上振れ期待を相応に織り込んでおり、計画未達や需要減速が確認された場合の調整幅は大きくなりやすい。
・為替:海外売上比率が約90%と高く、為替変動が円貨ベースの業績に影響する。
8. まとめ ― 焦点は8月6日の第1四半期決算
KOKUSAI ELECTRICのファンダメンタルズは、①2026年3月期は中国投資の一巡で減収減益となったが韓国向けが5割超伸び需要構造が転換、②2027年3月期は稼働率改善を主因に営業利益30%増を計画、③SEAJの装置市場予測が1兆円規模で上方修正され外部環境が追い風、④増配・自社株買いに加えKKRの全株売却で需給の重石が解消、という4点に整理できる。
次の確認ポイントは2026年8月6日に予定される第1四半期決算である。上期に前年同期比29.9%増収・43.1%営業増益という高いハードルを置いた計画に対し、四半期ベースでどの程度の進捗が示されるか。とりわけ砺波事業所の稼働率と利益率の推移、そして受注動向に関する会社側のコメントが、通期計画の確度を測るうえでの手がかりとなるだろう。
参照エビデンス一覧
[1] 株式会社KOKUSAI ELECTRIC「2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」2026年5月13日(業績・地域別売上・配当・自己株式取得・会計上の見積り変更)
[2] 株式会社KOKUSAI ELECTRIC「最新決算発表資料」https://www.kokusai-electric.com/latest_report
[3] 株式会社KOKUSAI ELECTRIC「半導体製造装置の新工場「砺波事業所」の竣工式を開催」2024年10月2日 https://www.kokusai-electric.com/news/document/2024100200
[4] 日本半導体製造装置協会(SEAJ)「2026年7月発表 半導体・FPD製造装置 需要予測(2026年度〜2028年度)」2026年7月2日 https://www.seaj.or.jp/file/july2026seajforecastforpress_j.pdf
[5] 日本半導体製造装置協会(SEAJ)「2026年1月発表 半導体・FPD製造装置 需要予測」2026年1月15日 https://www.seaj.or.jp/file/jan2026seajforecastforpress_j.pdf
[6] 日本経済新聞「半導体装置の26年度販売見通し、1兆円上方修正 半年間で大幅上振れ」2026年7月2日 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC258TS0V20C26A6000000/
[7] ニュースイッチ(日刊工業新聞社)「半導体装置、市場成長への対応急ぐ…KOKUSAIが砺波事業所隣接地に土地約4.3万㎡取得」2026年5月3日 https://newswitch.jp/p/49080
[8] 北國新聞「KOKUSAI、砺波事業所の隣接地取得 10億円、4万3000平方メートル」2026年4月28日 https://www.hokkoku.co.jp/articles/-/2091773
[9] 日本経済新聞「KOKUSAI ELECTRIC株価、急落 主要株主が全株売却へ」2026年5月20日 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFL201C80Q6A520C2000000/
[10] 日本経済新聞「KOKUSAI株、KKRが売却」2026年5月19日
[11] みんかぶ「KOKUSAI ELECTRIC(6525)決算情報・業績」(2026年5月13日決算発表内容・配当予想)https://minkabu.jp/stock/6525/settlement
[12] 松井証券 マーケット情報「KOKUSAI ELECTRIC(6525) 株価」(株価・時価総額・年初来高安値、2026年7月23日時点)https://finance.matsui.co.jp/stock/6525/index
[13] マネックス証券 銘柄スカウター「KOKUSAI ELECTRIC(6525) 企業分析」(第1四半期決算発表予定日)https://scouter.monex.co.jp/report/zaimu/6525
[14] Wikipedia「Kokusai Electric」(沿革・上場経緯)https://en.wikipedia.org/wiki/Kokusai_Electric
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本記事は、公表済みの決算短信・適時開示資料、業界団体統計および報道等の公開情報に基づき、株式会社KOKUSAI ELECTRIC(証券コード:6525)の事業内容および財務状況を客観的に整理することを目的とした情報提供記事です。特定の有価証券その他の金融商品の取得・売却・保有等を勧誘・推奨・示唆するものではなく、投資助言を行うものでもありません。記載内容は執筆時点(2026年7月25日)で入手可能な情報に基づいており、その正確性・完全性を保証するものではありません。株価・業績予想等は今後変動する可能性があります。投資に関する最終的な決定は、ご自身の判断と責任において行っていただきますようお願いいたします。